右図では、至近年の利用率低下が示されている。これは、太陽光発電が増加して需給バランスと調整力の確保が困難なレベルに達すると、電力系統の安定運用のために太陽光発電の出力抑制が必要になり、導入量が増えるほど抑制が増加するので利用率は低下する、という実態である。
しかし、STEPSでは2030年以降の利用率が増加している。WEO2024の中国の電源構成(図6)で太陽光発電割合を確認してみると、2030年には20%を、2050年には50%を超えている。中国では既に顕著な利用率低下が起きている現状とは別に、STEPSでは太陽光発電の割合が増加するのにつれて、利用率も直線的に増加していくことになっているが、その根拠は示されていない注4)。

図6 WEO2024 STEPSの中国の発電電力量の電源構成
以上、WEOのシナリオの中で、唯一forecat型で、蓋然性が高いはずのSTEPSが、毎年少しずつ「よりグリーンな」方向へのシフトを積み重ねることで、大きく変化しつつあることを示した。
その時々のWEOを読んでもわかりにくい、いわば「だるまさんがころんだ」的な小さなシフトを、今回の「ストロボ写真」的な比較分析が有意に示すことができた。
IEAはSTEPSを「発表されている政策(但し裏付けのあるものに限る)と整合するシナリオ」と定義しているにも関わらず、グリーンシフトの背景には「政策想定と矛盾する大量の太陽光発電設備の導入」や「根拠不明なまま上昇し続ける太陽光発電設備の利用率」などの不可思議な中国の想定がある。
forecast型のシナリオと位置づけているSTEPSに関しては、IEAは根拠を明記した上で定義の通りの想定を置き、蓋然性の高い将来展望を示してほしい。
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利用したデータは以下の通り(いずれもIEAのwebsiteから購入可能)
IEA, WEO2021_AnnexAExtended_Data
IEA, WEO2022_Extended_Data
IEA, WEO2023_Extended_Data
IEA, WEO2024_Extended_Data