
coffeekai/iStock
国際エネルギー機関(IEA)は、毎年秋にWorld Energy Outlook(WEO)を発刊している。従来バイブル的な存在として世界中のエネルギー関係者の信頼を集めていたWEOに、近年変化が起きている。
この2月にアゴラに掲載された有馬純氏の「IEAの『エネルギー妄想」に高まる批判」では、元IEAの石油市場分析責任者がWEO2024の石油に関する想定を非現実的な「妄想」だと批判している。

IEAの「エネルギー妄想」に高まる批判
1月29日、米国のシンクタンク National Centre for Energy Anlytics のマーク・ミルズ所長と元国際エネルギー機関(IEA)石油産業・市場課長のニール・アトキンソンの連名で「エネルギー妄想:ピークオイ...
本稿では、筆者が感じる変化の根拠を、過去4年分のWEOのシナリオSTEPSの分析に基づいて紹介したい。
WEOでは2021年版(WEO2021)からSTEPS、APS、NZEという3つのシナリオがメインシナリオとして位置付けられている。STEPSは「現在実施中のエネルギー・気候政策および発表されている政策(但し裏付けのあるものに限る)と整合するシナリオ」と定義されている。
将来の目標をピン止めするbackcast型のNZE(2050年の世界CO2排出量をゼロと想定)やAPS(全てのカーボンニュートラル宣言達成を想定)とは異なり、STEPSはforecat型(シミュレーションによる将来展望)で、最も蓋然性の高いシナリオという位置づけである注1)。
エネルギー、電力、CO2の変化
WEO2021~WEO2024のSTEPSの世界の一次エネルギー供給、発電電力量、CO2排出量の比較を図1に示す。

図1 WEO2021~WEO2024 STEPSの世界の一次エネルギー供給(左)、発電電力量(中)、CO2排出量(右)