情報システムを構築する際には大きなコストが生じる。しかし、そこで使用されるソフトウェアなどは、時間の経過とともに安価になり、やがて無料になる。そうなると、製造費の一部が無料になりその分、販売価格は下がる。こうした現象がサービス産業に及べば、一般的な物価下落になる。

リフキンの主張するゼロは極端だが、情報化の発展≒物価の下落はあると認識しておいた方がよい。世界のほんの少数の企業の桁外れの利益は、安いものを高く売っているからであり、先進国・特に日本の物価が上がらないのは、労賃の下方硬直とともに情報化の意図せざる恩恵があるのかもしれない。

図1 日米時価総額トップ企業の当期利益推移
出典:川島一郎氏(北洋証券)作成

 

図1をみてみよう。これはアメリカの時価総額上位企業、いわゆるGAFAMプラス2うちの5社の利益を示している。日本の最高益企業トヨタも比較で示した。

これをみると、アップルとグーグルという情報産業のリーダー企業の利益は1000億ドルを超えそうだ(2025年予想)。日本円で15兆円になる。トヨタは情報産業ではないが、情報製品のおそらく最大のユーザーである。その利益は5兆円弱である。

こうした現実には、リフキンの主張する限界費用ゼロ ⇒ 利潤減少という図式はまだ見えていない。ほんの一部の企業に偏した型で資本主義は“繁栄”しているのである。

小括

後半に進む前にコメントをしておこう。

① 行きつく先は限界費用ゼロというが、数学と違って現実の経済では終点には至らない。

生産者にとっても消費者にとっては限界価格ゼロ ⇒ 価格ゼロは極端な想定である。

② 完全自由競争という条件、さらに参入障壁がまったくないという条件がないと、ゼロに 向ってどこまでも進んでいくという想定は成り立たない。

③ ②の主張の別表現だが、独占、寡占が成立していれば、価格の低下は抑制される可能性が高い。IT業界は競争が一段落してデファクトスタンダードが成立し一強体制になっている分野が多い。ベンチャー企業の参入による競争の再現といっても、それは末端のデバイスではありうるが、基幹のシステムでは初期投資の巨大さもあって可能性は低い。