ロシアを敵視して軍事力を強化する政策をとる。中国を敵視して軍事力を強化する政策をとる。こうしたわかりやすい短絡的なスタンスだけが、「今日のウクライナは明日の東アジア」という文言とともに、独り歩きしているように見える。
だがそれが具体的に何を意味するのか、現実に可能なことなのか、という面倒な問いは、忌避される傾向にある。せいぜい「アジア版NATO」といった現実離れした抽象的な構想が口走られるだけなのが実情だ。
短絡的な政策は、相手側の強硬な姿勢を、必ず引き出す。いわゆる「安全保障のジレンマ」である。そして最後は勝つか負けるかの世界に陥るだけになる。ロシアとウクライナの関係である。そのとき、勝つのは大きく強い方であり、負けるのは小さく弱い方である。小さく弱い側は、「アメリカが参戦してくれないか」といったことだけに、最後の望みを託すだけだ。
このいわゆる「安全保障のジレンマ」に、中国と比較して圧倒的な劣位にある日本が、積極的に自らを追い込んでいこうとするのは、少なくとも望ましいことではない。これはウクライナの対ロシア政策の教訓と言ってもいい点だろう。
現在、日本の軍事評論家や安全保障の専門家層は、ウクライナが負ける、というシナリオの可能性を考えること自体を拒絶している状態にある。そんなことを認めるくらいなら、永久に戦争をする覚悟を定めるしかない、といわんばかりの様子である。だが、実際には、言うまでもなく、永久戦争など、不可能である。
果たして、「今日のウクライナは明日の東アジア」、とは、実際には何を意味しているのか。日本は、そのメッセージから、どのような教訓を得ようとしているのか。そろそろ冷静な検討に本腰を入れる時期に来ているのではないか。
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