ミアシャイマー教授は、「攻撃的リアリズム」の理論で知られる。端的に言えば、国家の攻撃性を強調する学派だ。ミアシャイマー教授は従来から、NATOの東方拡大をウクライナまで及ばせようとして、ロシアが反応しないはずがない、という主張をしていた。2014年マイダン革命以降、その警鐘を鳴らしていた。

彼は「親露派」の「陰謀論者」とみなされて、今や欧米+日本の主流派の人々からは完全に白眼視されているが、彼の理論的立場からすれば、当然の結論を述べているだけだったにすぎない。私は、『フォーサイト』で、そのことを指摘した。

私は、次に『フォーサイト』で、ヘンリー・キッシンジャーについて繰り返し書いた。やはりアメリカの現実主義者として知られる学者だが、大統領補佐官・国務長官も務め、アメリカ外交史に巨大な足跡を残した人物だ。もともと研究者だったが、博士号取得論文が19世紀ウィーン会議の研究であったように、外交史の研究に重きを置く人物であった。その点は、ミアシャイマー教授とは、少し趣が異なる。

キッシンジャーがダボスで語った新たなウクライナの「正統性」と欧州の「均衡」(上):篠田英朗 | 「平和構築」最前線を考える | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト
波紋を広げたダボス会議でのキッシンジャー氏の発言は、「領土分割」が真意ではない。ウクライナに関する「中立的な国家」という自身の認識の修正と、ロシアを排除した欧州の均衡は成立しないという今後の秩序構築が論点だ。(後編はこちらのリンク先からお読みいただけます)
キッシンジャーがダボスで語った新たなウクライナの「正統性」と欧州の「均衡」(下):篠田英朗 | 「平和構築」最前線を考える | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト
「正統性」と「均衡」の両建てで国際秩序は維持される――。そうした一貫した世界観のもと、キッシンジャー氏はウクライナがこの戦争で新たな正統性を得たことに注目する。新たな正当性は必然的に、新たな均衡を伴うだろう。一貫性のもとでの「修正」を忌避しないというこのキッシンジャー氏の示唆を、われわれは受け止める必要がある。(前編は...