これに対して長崎の歴史は複雑だ。中央政界に大きな影響力を持った歴史がない。それどころかキリスト教弾圧の歴史や、隠れキリシタンの苦難は、弱者に対する迫害の歴史そのものである。

他方で、江戸時代を通じて出島を持ち、幕末にはグラバー商会や海援隊が活躍の場とした開明的な歴史も持つ。もちろん軍艦島のような異なる意味を持つ施設もある。被爆の歴史も、天候事情のため投下対象が小倉から長崎に急遽変更になった混乱があり、三菱造船所などがひしめく港湾部ではなく、町の中心部から外れた複雑な歴史を持つ浦上地区に原爆が落ちる結果となったのも、歴史の皮肉だった。

鈴木市長は、国土交通省に長く勤めた。交通利便性の向上に大きな関心があるという。長崎は、現在、未曽有の人口減少に見舞われており(2023年は長崎県は全国の都道府県でワースト7位の人口減少率)、それは予測しうる将来において続くことが確実視されている。立て直しは容易ではないだろう。

もっとも広島県も、転出超過者の絶対数では、2021~23年と三年連続で全国ワースト1位である。産業空洞化の進行が深刻だ。その状況で、2023年に延べ宿泊者数1,157万人を受け入れた観光系の業種は、有力産業である。岸田首相が主導したG7広島サミットも一役買った。外交政策としての意味と比して、広島の観光振興としての意味は、明確だった。

長崎も、観光系の産業などに、まだ大きなポテンシャルがあると思う。交通事情の整備も大切だろうが、まずは市民・県民が誇りを持てる長崎であることが重要だ。そのうえで、長崎の魅力を、世界に発信していくことが大切だ。

その際、広島と全く同じやり方を取る必要はない。それは妥当でなく、しかも、可能でもない。岸田首相の時代が終わり、あらためて、長崎市の行事である長崎平和祈念式典は、長崎の利益を考えて、長崎市長が運営方法を決定すべきだ、と感じる。

長崎市の鈴木史朗市長の判断を支持する
長崎市が8月9日の平和祈念式典にイスラエルを招待しなかったため、エマニュエル駐日米国大使やロングボトム駐日英国大使らも式典を欠席することになった。7月19日付で、G7各国と欧州連合(EU)は、イスラエル不招待への懸念を表明する書簡を...
追記:長崎市の鈴木史朗市長の判断を支持する(続)
昨日の「長崎市の鈴木史朗市長の判断を支持する」という題名の記事を書いた。8月9日当日の平和祈念式典では、鈴木市長は、毅然とした平和宣言を行った。 これに対して「日本政府」の「与党幹部」や「外務省幹部」が、あたかも鈴木市長が浅は...