研究チームは、そこに含まれるDNAを“くまなく捜査”するように約85万カ所のメチル化パターンを解析し、暴力の経験やタイミング(直接・胎内・生殖細胞レベル)による違いを徹底的に調べました。
結果として、まず見つかったのは“直接暴力を体験した人々”のDNAにおける、いわば「特有の足跡」です。
ここには21もの部位で特徴的なメチル化変化が認められ、子ども世代と母親世代の双方に現れていました。
一方で、1980年代の暴力を目撃した祖母と、その娘、さらに孫にも共通して14カ所の変化が残っていたことも見逃せません。
これは“祖母が妊娠中に感じたストレス”が、まだ受精前の「生殖細胞」にまで影響を与えた可能性を示唆するものです。
興味深いのは、いずれの暴力期を体験していない対照群には、こうした変化が見られなかったという点です。
まるで砂浜に残る足跡のように、特定のDNA領域が「暴力を経験したかどうか」を指し示しているようにも思えます。
また、妊娠期(胎内)曝露については、他の二つのグループほど顕著な差分メチル化は検出されなかったと報告されています。
この点について研究者たちは、「生殖細胞レベル」や「直接暴力」ほどの大きなインパクトが胎内曝露には見られなかった可能性があり、詳細をさらに調べる必要があると指摘しています。
さらに、子ども世代の一部にはエピジェネティック上の“年齢加速”とも言える変化が確認されました。
これは、実際の年齢よりも早く細胞が“老化”しているように見える指標のことで、特に妊娠期に暴力を浴びた母体から生まれた子どもで顕著だったといいます。
こうした細胞レベルの“老化促進”は、将来的な健康リスクやストレス耐性の変化などに結びつく可能性が指摘されており、大きな関心を集めています。
エピジェネティック上の“年齢加速”とは、実際の誕生日で示される年齢よりも、細胞が“老けている”ように見える現象です。