たとえば「プラセボ効果」や「ノセボ効果」と呼ばれる現象はその典型例です。
薬剤そのものに大きな作用がなくても、「効くはずだ」という期待があると脳が痛みを抑える物質を分泌しやすくなったり、逆に「副作用が怖い」という不安があると症状が出やすくなったりすることが、これまでの実験で確認されています。
実際、痛み止めや鎮静薬を与えられる際に「よい効果がある」と伝えられるか、「悪い反応が出るかもしれない」と伝えられるかだけで、まったく同じ薬剤でも体の反応が大きく変わるケースがあるのです。
こうした「心の持ちよう」と「身体のはたらき」の関係は、脳から放出される神経伝達物質やホルモンが、血管や免疫細胞に作用するルートを介して説明されることが多いです。
たとえばポジティブな期待感を抱くと、ストレスを感じたときに分泌されるコルチゾールなどのホルモン量が抑えられたり、痛みを和らげるエンドルフィンやオキシトシンといった物質が増えたりすることが報告されています。
結果として、免疫が過度に抑制されにくくなり、体が回復しやすい状態を保つことができるのです。
一方、ネガティブな思い込みを抱えると、不安や恐れといった感情がより長引きやすく、身体の警戒システムが過度に働いたままになってしまう可能性が高まります。
その結果、体力を消耗するだけでなく、免疫バランスが乱れやすくなり、疲れやすかったり、症状が重く感じられたりすることがあるのです。
ストレスや健康状態に関するマインドセットを扱う先行研究でも、同様のメカニズムが観察されています。
たとえば「ストレスは害にしかならない」という考え方と、「ストレスは成長や学びのチャンス」という考え方では、同じ出来事を体験してもホルモンの分泌量や血管の拡張・収縮の仕方が異なり、最終的には集中力や体調にまで影響が及ぶのです。
また、慢性疾患やがん治療での研究でも、患者自身の「病気や治療に対する見方」が痛みや疲労感、または免疫指標に影響を与えることが繰り返し示唆されています。