実は、PDF というファイル形式には、内部でページの大きさを決める「座標システム」が組み込まれています。ここでは「1インチ=72ポイント」という基準で、すべてのテキストや図形の配置が計算されます。

さらに 2000 年代以降の PDF 仕様(PDF 1.6 など)では、「/UserUnit」という拡大率を設定することで、理論上どこまでも大きいページを作成できるようになっています。

いわば「1 ポイントは何倍のサイズとして扱うか」を自由に決められる仕組みがあるわけです。

たとえば標準的な論文(A4サイズ)10ページが「1インチ=72ポイント」の形式で繋がって印刷される場合、およそ3メートルの長さになります。

「PDF は一辺 381 キロメートルまでしか作れない」という話が、インターネット上であたかも定説のように広まった背景には、Adobe Acrobat Reader が設定していた「1 辺あたり 15,000,000 インチ」という上限値が関係しています。

1 インチを 2.54cm で換算すると 15,000,000 インチ、すなわち381km という数字が生まれました。

ところが、PDF の仕様そのものをよく見ると、ページサイズの上限は実は“Acrobat 側の都合”で決められたものであって、PDF というフォーマット自体には「絶対的な制限」が存在するわけではありません。

さらにPDF では「1インチ=72ポイント」という座標系のほかに、「/UserUnit」と呼ばれる拡大率の設定を用いて、理屈の上ではどこまでも座標を拡大できます。

言い換えれば、数百キロメートルどころか、何億光年のような天文学的サイズのページさえ定義できる余地があるのです。

この点に注目し、実際に“381kmの壁”を突破してしまったのがイギリスのソフトウェア開発者アレックス・チャン氏(Alex Chan)です。

彼は PDF のファイルを通常のソフトウェアで生成するだけでなく、テキストエディタでコードを直接編集するという骨の折れる方法を選びました。