そして、調査結果やさまざまな統計からのデータによって、テーマとして取り上げた社会現象のリアリティーを確保することで、社会学の実証性が維持できる。すなわち「視野の広さと洞察の深さをもってだけでなく、リアリティーをもってなさねばならない」とした(同上:443)。
このリアリティーとは「現代の現実的な諸問題に、正面からとりくむ」ことを表わす(同上:443)。46歳で急死するまで、ミルズはこれを忠実に実行した。
ヒューマニズム
ヒューマニズムは論文ではヒューマニスト的関心とされていて、実質的には
- 全体としての社会にとって、われわれの研究テーマはどのような意味があるか。また、この社会的世界(Social world)はどうなっているか
- この社会で優勢な人間のタイプにたいして、その研究がどのような意味をもつか
- 研究テーマがこの時代の歴史的傾向にどのように対応しているか、またどの方向にむかってこの主要な傾向が動いていくか
などを問い続ける姿勢を指している(同上:440)。
学部3年生の時に翻訳され、大学院修士課程で購入したこのミルズの遺稿集からは、この社会学の公式以外にもたくさんのことが学べた。
ホロビッツが遺稿の配列を工夫して、それらは「権力」、「政治」、民衆」、「知識」に分けられる。これらの論文に加え、代表的な著作である階級・階層論の実証的研究書である『ホワイト・カラー』(1951=1957)、アメリカ社会の権力構造論の白眉となった『パワー・エリート』(1956=1969)、そして現在までも読み継がれてきた画期的な社会学方法論である『社会学的想像力』(1959=1965)などは、社会学への入口において大きな刺激となった。
このうち、入学した大学の社会学講座に『社会学的想像力』の翻訳者である鈴木広先生がおられたことは、まさしく「運」であり、同時に出会いから先生のご逝去までの約50年間の「縁」でもあった。