もっとも学界全体で見れば、異なった視点と結論が衝突し、交錯し、融合して、新しい論点が誕生する。これは学問の発展として期待される可能性に富む道筋であろう。

学問は普遍性とともに研究者の個性を活かすところに開花する。そこにはテーマに即した考え方と方法があり、独自の資料収集法や分析方法、そして結論へと導く推論の仕方がある。社会学ではインタビュー法や公刊資料などを駆使した質的調査法、質問紙を作成してランダムサンプリンクした対象者に面接して尋ね、その結果を計量的に処理する量的調査法が双璧だが、もちろん両者は互いを排除するわけではない。

くわえて最近では、デジタル映像をチェックしたり、路上観察したり、民俗学的な口碑を採集して、これを丹念に蓄積する方法も兼用される。そしていずれもその過程で、いわゆるセレンディピティというおもいがけない偶然による価値ある発見や興味深い創造が得られることがある注4)

社会学=IBM+リアリティー+ヒューマニズム

ところでミルズの1954年の論文に“IBM Plus Reality Plus Humanism=Sociology”があり、心臓疾患により1962年に急死した後に、ホロビッツが編集した遺稿集に採録されている(ホロビッツ編、1963=1971:437-444)。この公式は社会学の特徴をよくとらえていると考えて、長らく教養課程の「社会学講義」でも紹介してきた。

まず、1954年時点でのIBMも驚きだが、これはもちろん調査結果のデータ整理、統計学的処理、図表にまとめるといった実証的側面を象徴する代名詞である。アップルなどの新興メーカーが登場するまでは、IBMが文字通りアメリカのコンピューター技術の精粋を集めたメーカーとして世界に君臨していた。

ミルズは「調査技術は、数学的厳密さと同時に、より広い意味と関連のもとに、仕事をしなければならなくなってきている」(ミルズ、前掲論文:443)として、IBMという表現を使っている。

リアリティー