実際、Happer & Lindzen両教授によるEPA提出文書(2023年7月19日)には、1979年から2016年にかけてのCMIP5モデルの予測と、実測温度(衛星・気球)の乖離を比較した図が掲載されている。その中で、102のモデルのうち実測に最も近かったのはロシアINM-CMモデルであり、他の多くのモデルは温度上昇を大きく過大評価していたことが視覚的に明確に示されている。
政策への過度な依存
IPCCの報告書や各国の温暖化対策は、こうしたモデルの出力を「準確定的な未来」として受け入れている。しかし、モデルそのものが複数の仮定の積み重ねである以上、そこで導き出される気温上昇値に科学的な確定性は存在しない。にもかかわらず、「このままでは5℃上昇する」などという発言が一人歩きしており、これは科学の範疇を超えた政治的メッセージなのである。
ウィリアム・ハッパー(プリンストン大学名誉教授)は、「モデルは科学というよりも、政治的目的に沿った物語作成ツールになっている」と述べている。
気候モデルと天気予報モデルの違い
よく「天気予報が当たるなら気候モデルも信頼できるのでは?」という疑問が呈される。しかし、両者は本質的に異なっている。天気予報は数日〜数週間の初期値問題に基づく予測であり、大量の観測データで精度が上がる。
一方、気候モデルは数十年〜100年スパンの境界条件問題に基づくもので、未来の社会や太陽活動などが仮定されており、精度よりも仮定の妥当性に依存する。
結論:気候モデルとどう向き合うべきか
気候モデルは、科学的思考を補助する道具として有用である。しかしそれはあくまで「仮説の実験装置」であり、現実の未来を予知する水晶玉ではない。科学と政策の間には健全な距離が必要である。
モデルの限界と不確実性を理解しないまま、それを政策判断の唯一の根拠とすることは、科学の誤用であり、民主主義的議論を歪める危険性すらある。