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はじめに:なぜ気候モデルを問い直すのか?
地球温暖化対策の多くは、「将来の地球がどれほど気温上昇するか」というシミュレーションに依存している。その根拠となるのが、IPCCなどが採用する「気候モデル(GCM=General Circulation Model)」である。しかし、これらのモデルは万能ではなく、構造的な限界と仮定に満ちている。
1年前、「CO2は削減すべきか?気候モデルには科学的な裏付けがあるのか」という記事を掲載した。

CO2は削減すべきか? 気候モデルには科学的な裏付けがあるのか
1.ネットゼロ/カーボンニュートラル
東京工業大学先導原子力研究所助教の澤田哲生氏が、ネットゼロ/カーボンニュートラルの意味について説明している。
ゼロカーボンはいばらの道:新たなる難題
引用すると、
ネットゼロ...
本稿では、気候モデルの仕組みと限界について科学的に概説し、なぜ私たちがそれを無批判に政策判断に使うべきではないのかを述べる。
気候モデルとは何か
シミュレーションの枠組み GCMは、地球大気・海洋・陸地・氷床などを数値的に模擬するモデルだ。気象方程式をベースに、地球全体を3次元格子に分割し、時間ステップを刻みながら未来の状態を逐次計算していく。
モデルは物理法則(ナビエ・ストークス方程式、エネルギー保存則など)に従っているが、地球全体を100km以上の格子に区切ることで、都市や山岳、微細な雲などの局地的な現象は直接再現されない。これらの小スケール現象は「パラメータ化」という形で経験的に近似される。
不確実性の4つの要因
- 初期条件の敏感性(カオス性): 気候は非線形の複雑系であり、初期状態にごくわずかな違いがあっても、数十年後のシミュレーション結果は大きく乖離する可能性がある。これはローレンツの「バタフライ効果」として知られている。
- パラメータ化の限界: 例えば、雲やエアロゾルは気候感度に大きな影響を与えるが、観測や理論的理解が十分でないため、モデル内では仮定や経験則で置き換えられている。これによりモデル間のばらつきが生じる。
- 空間・時間分解能の制約: 大気や海洋を100〜250kmの解像度で表現するため、都市気候や熱帯の対流活動といった重要な局所現象が捨象される。これが地域気候の誤差要因になる。
- 排出シナリオの仮定依存: 未来のCO2排出量や社会経済活動は予測不能であり、SSPやRCPといった複数の「仮定された未来」のシナリオが用いられる。モデル出力はこれに強く依存しており、確定的予測とは異なる。