つまり高率関税が世界恐慌や世界大戦を招いたのではない。世界恐慌が高率関税を招き(原因と結果が逆)、高率関税を導入して囲い込む自国の植民地を持っていなかった諸国が、世界大戦を開始した。それが史実である。
世界恐慌後のブロック経済の進展が、第二次世界大戦を招いてしまった、という反省から、戦後は関税を低く抑えることを目的にした自由貿易体制が標準化した。今日のWTO(世界貿易機構)に受け継がれるGATT「関税および貿易に関する一般協定」が1947年に成立して、強力な自由貿易維持の協調体制ができあがったのは、この第二次世界大戦の原因分析に基づく反省からである。
したがってこれは政治的な反省であって、経済的なものではない。
しかもその政治的枠組みも、冷戦期のソ連や中国には適用されなかった。そのため自由貿易体制の維持は、自由主義陣営の維持そのものと同一視される傾向が生まれた。そこで超大国アメリカが、その圧倒的な経済力を、20世紀前半までの大国のように、自己利益の追求のために使うのではなく、国際制度の維持のために費やすという習慣が生まれた。これは、アメリカが自由主義陣営の諸国を率いて、共産主義陣営との間の冷戦を戦っていた、という国際政治の全体図の文脈がなければ、とうてい理解できない習慣であった。
この図式は、冷戦が終わった時に、変化を見せ始めた。当初は「自由民主主義の勝利」「資本主義の勝利」が疑いようのない現実だと信じられていたため、自信に満ち満ちたアメリカが、ロシアや中国を、WTOを通じた自由貿易体制に引き込んだ。これは第一義的には、かつての冷戦時代の敵を、同じグローバルな経済システムに入れ込むことが、国際社会全体の安定にもつながる、という政治的動機があって初めて意味を持つ措置であった。
しかし同じ時期、21世紀になってからのアメリカは、そしてその他の自由主義諸国も、経済成長のパフォーマンスでは見劣りがするようになり始めていた。世界経済における伝統的な自由主義諸国のシェアは、低下の一途をたどった。