これまでにも、鳩山由紀夫氏の資金管理団体の偽装献金事件で、現職総理大臣であった鳩山氏自身が刑事告発された件、安倍晋三氏が、後援会が「桜を見る会」の前日に主催した夕食会をめぐって、総理大臣在任中に政治資金規正法、公選法違反で告発された件(この事件では、安倍首相退任後に、秘書が政治資金規正法違反で略式起訴されている)など、総理大臣が在任中に刑事告発された事例はあった。

これらの事例では、直接的に関わったのは秘書であり、総理大臣自身が刑事責任を問われることについては「共謀についての証拠」というハードルがあり、在任中の総理大臣の刑事責任が現実的な問題になったわけではなかった。

しかし、今回の商品券問題については、衆院一期目議員への配布を指示したことを石破首相自身が認めており、刑事責任の有無は、それが「政治活動に関する寄附」と言えるかどうかという「解釈問題」にかかっており、仮に、検察当局がその点を肯定した場合には、起訴するか起訴猶予にするか、という裁量の問題となる。

「訴追される可能性はない」と明白に言えるのであれば、そう断言するだけで良いのであるが、今回の商品券問題については、前記のとおり、「限定説」「非限定説」いずれで割り切ることも困難な面があり、首相公邸で官房長官等も出席して開かれた会食の「土産」だったこと、政治に関連する話題が中心だったことなどから、マスコミの論調の多くは「政治活動であることは否定できない」というものであり、「政治活動ではないことは明白」「訴追の可能性はない」ということで済まされる問題ではない。

【石破首相「商品券問題」、政治資金規正法21条の2をめぐる“真実”~「裏金問題」への波及は不可避】でも述べたように、過去に政治資金規正法21条の2の政治家個人宛寄附禁止規定で起訴された事例は全くなく、この規定を積極的に活用すべきであった「政治資金パーティー裏金問題」でも、検察当局は、全く立件すらしていない。そのため、政治資金規正法21条の2の政治家個人宛寄附禁止規定は全く機能しておらず、事実上「死文化」しており、そのような検察のこれまでの対応からすると、今回の商品券問題の告発事件についても、検察が起訴の判断をする可能性は極めて低い。