しかし、「非限定説」にも難点がある。今回の商品券問題は、一人当たり10万円という一般庶民の感覚からすると多額の贈与だったことが問題にされているが、仮に1万円、或いは5000円だった場合でも、「一切の」を強調する非限定説の立場からは、「政治活動」に当たることになる。そのため、「政治家間の金銭等のやり取りはすべて政治資金規正法21条の2第1項違反」ということにならざるを得ない。
「限定説」は、政治資金収支報告書による政治資金公開の現状と整合せず、「非限定説」では、政治家個人宛寄附を全面的に禁止する法21条の規定との関係の説明が困難となる。結局のところ、いずれによっても明確な基準を示すことはできず、その行為自体から、「政治的目的」が認められる程度によって判断せざるを得ないことになる。
憲法75条の規定により「在任中の総理大臣の訴追」はできない
田島議員が「告発が行われているのだから、違法かどうかは検察や司法が判断すべきことではないか」と質問したのに対して、石破首相は「世の中の常識に反していたことについては申し訳ない、違法ではないからと言って開き直るつもりはない」と答弁している。
既に、告発状も検察に出されているのであるから、通常であれば、「違法性の有無については、検察当局のご判断にお任せしたい」と答弁し、実際に、早期に不起訴で刑事事件が決着することで問題は決着する。しかし、今回の問題については、石破首相は、そのような答弁だけでは問題は片付かない。それは、既に刑事告発も行われている今回の商品券問題では、「在任中の総理大臣の刑事責任」が直接的に問題となっているからだ。
憲法75条で、「国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。」とされている。法令上の「国務大臣」は内閣総理大臣を含む閣僚すべてを指すと解されており、総理大臣を含む国務大臣を総理大臣の同意なしに訴追することはできない。総理大臣が自らの訴追に同意することは考えられないので、在任中に総理大臣が訴追を受けることは事実上あり得ない。