トライアル店内に入ると、各コーナーに設置された大型モニター(デジタルサイネージ)が目につく。カランカランというベルの音(そしてBGM)とともに、全モニターに映し出されるのは、
「ただいま出来立て! 4種の醤油と生姜が香る唐揚げ」
「出来上がりました! かつ重299円 大人気!!」
総菜情報である。揚げたての唐揚げ。出来立てのかつ重。総菜コーナーは、すでに人だかり。ついつい並んで手に取ってしまう。ショッピングカートのスキャナーでバーコードを読み取ると、ドレッシングの割引クーポンが表示される。そういえば、そろそろ無くなる頃だ。買っておこうか……。
安価な商品で初来店を促す。プリペイドカードで再来店を促す。店内のデジタルサイネージやショッピングカートで非計画購買を促す。その巧妙な仕組みで、トライアルは24期連続増収である。では、買収される西友はどのような状況か。決算公告直近2年分(2022年12月期~2023年12月期)を見てみよう。
利益増・売上減少の西友
注目すべきは売上高と粗利(売上総利益)だ。売上は7054億円から6648億円へ「406億円」減っている。だが、粗利は「8億円」増えている。粗利が多い商品、すなわち「高付加価値商品」が増えた、ということだ。
高付加価値と言えば聞こえは良い。だが、価値が高いのは企業にとってであり、消費者にとっては、お得感が少ない「高値」商品だ。このような商品ばかりが棚を占めると、来店頻度は低下する。それに伴い売上も減少していく。22年から23年にかけては、「客数」減のマイナスを「高値」のプラスが補っていた。

成城石井(gあたり5.29円)より高い西友のPB(gあたり7.07円)
両社ウェブサイトより
だが、この先どうなるか。さらなる客離れが起こる。少し遠くても、安い他店で日用品を買い、近くの西友では急ぎの商品・納得価格の商品だけを買う。いわば「西友のコンビニ化」である。やがて、「客数」減のマイナスが「高値」のプラスで補えなくなり、利益が減少していく。そうなる前に、西友売却を決めた「KKR」のタイミングは絶妙だった、と言える。