もはや、かなりの数の評論家・学者・メディアが、もはやアメリカ大統領の言説の分析を放棄しているような状態だ。これらの方々は、熱心に、「プーチン大統領の陰謀論に篭絡された」といった物語を口々に叫び、扇動的に世論に訴えかけている。
だが、どこまでトランプ大統領の思考が破綻していると言えるかは、それほど単純な問題ではない。ウクライナ政府が、戒厳令下の強権を用いて、選挙を延期し続けているのは事実である。
カール・シュミットの言葉を用いれば、戒厳状態は「既成法治国家的秩序における独裁」であり「委任独裁」と分類される。他国の大統領を「選挙のない独裁者」と呼ぶのが非礼であることは確かだが、概念構成が著しく破綻しているとまでは言えない。現実を、嫌味な言い方で描写した、ということだ。
だが、それではなぜトランプ大統領は、そのような言葉づかいでゼレンスキー大統領を挑発しているのか?
日本の大多数の評論家・学者・ジャーナリストによれば、「もちろんそれはトランプ氏の頭がおかしく、しかもプーチンの陰謀論に篭絡されたから」ということらしい。
果たしてトランプ氏の行動は本当にそこまで破綻しているのだろうか。
冷静に考えてみよう。
選挙戦中から一貫してトランプ大統領は、「戦争を終わらせる」と言っている。今、トランプ大統領を「陰謀論者」と呼んで非難している方々は、この立場それ自体を受け入れたくない方々である。なぜなら自分たちがこれまで、「ウクライナは勝たなければならない」、と主張してきたからである。
だが、「戦争を終わらせると言っていること自体が陰謀論に染まっている証拠だ」といった主張を証明できるだろうか。これはかなりの程度に、政策判断にあたっての価値判断の問題である。巨額の支援を続けているアメリカが、もうその負担から解放されたいと願うこと自体は、それほど「陰謀論」的なものだとは思えない。
原理主義的な立場を離れ、いったんトランプ大統領の政策目標を受け入れてみよう。アメリカが戦争の停止を望むこと自体は破綻した考えだとまでは言えない、と想定してみよう。その場合でも、果たして、トランプ大統領の態度は、支離滅裂な陰謀論だと言えるだろうか。