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国際関係論/国際政治学(IR:International Relations)は、独立した社会科学の1つの専門分野とみなされることもありますが、この学問の本場ともいえるアメリカの大学・大学院では「政治学部(Department of Political Science/Politics/Government)」で学んだり、研究したりするのが一般的です。
その「政治学」は、この数十年で「科学化」が進みました。高度な統計テクニックを駆使した「仮説・検証」型の論文や実験政治学の研究が増えたのです。こうした政治学における「定量アプローチ(quantitative approach)」は、ラリー・バーテルズ氏(バンダービルト大学)から「定量帝国主義」と痛烈に批判されましたが、その勢いは衰えていないようです。
はたして、国際関係論は本当に「政治科学化」、すなわち定量的アプローチに支配されてしまったのでしょうか。この重要な問いに1つの答えをだしたのが、ジェフ・コルガン氏(ブラウン大学)です。
かれはアメリカの主要な政治学部の大学院教育に着目して、そこにおける国際関係論のコアー科目で必読文献として学生に予習を課している学術書や論文などを網羅的に調べることにより、その政治科学化の程度を論文「国際関係論はどこへ行くのか―大学院教育からのエビデンスー」(Jeff D. Colgan, “Where Is International Relations Going? Evidence from Graduate Training.” International Studies Quarterly, Vol. 60, No. 3, 2016, pp. 486–98)において明らかにしました。
その結果は、意外にも国際関係論はそれほど「政治科学化」していないし、理論を置き去りにする「仮説・検証」の研究が過度に評価されているわけでもないということでした。