ここでも、プーチン大統領は、クルスク侵攻で苦境に陥った、という断定がなされる。本人がそのように振舞っていないとしても、今までなかったことが起こったのだから、苦境に陥っていないはずがない、という断定がなされる。

そして今後ウクライナ軍が、モスクワの住宅地などに「限定的な住民の犠牲もやむなし」という「心理的作戦」を仕掛ければ、いよいよロシア国民も、プーチン大統領が無力で邪悪な独裁者であることに気づいて、戦争反対の声をあげ、ロシア軍は撤退していくはずだ、という説明がなされる。

ほとんど小説のような話であり、この推察を裏付ける事実の展開が何もない。根拠は、「プーチンは狼狽している」「ロシア国民は覚醒する」といったロシア側の心理的要素の将来の変化への期待のみである。

「プーチンは邪悪である、ロシア国民は騙されているのでなければ、脅かされているだけである、したがってウクライナ軍がプーチンを脅かしているのを見たら、ロシア国民はプーチンを見限るだろう」、といった歴史的・論理的裏付けが不明な推察によってのみ、主張が成り立っている。

確かに、ウクライナのクルスク侵攻は、こうしたロシアを悪魔化する思想に依拠した一方的な世界観に基づく人々によってのみ、決定された作戦であるように見える。ゼレンスキー大統領は、日々、ロシアが、特にプーチン大統領が、悪魔であることを力説する演説やSNS発信に余念がない。

このゼレンスキー大統領の態度は、欧米諸国をこえた世界では、すでにアピール力を減退させ始めている。日本でもある程度はそうだろう。

ただし、まだ、「ロシアの主張が含まれている情報には触れてはいけない、もし見たらお前も親露派として糾弾するぞ!」と、日々、「隠れ親露派狩り」に余念のない人々がいる。言うまでもなく、クルスク侵攻作戦を絶賛した人々である。

「篠田英朗国際情勢分析チャンネル」開設!チャンネル登録をお願いします!