ウクライナは領土を全て奪還したら戦争を停止したいので、ロシアを前面屈服させるわけではない、と言うかもしれない。しかしそのときロシアが戦争を停止する保証はない。要するに、どこで「均衡点」を見出すか、が本質的な問題である。領土の線引きではない。

ネオコンを排し、新しい共和党の体制を構築したドナルド・トランプ氏は、決して理論的な観点からキッシンジャーを信奉しているわけではないだろうが、その比類なき交渉好きの性格から、結果としてキッシンジャー路線に立ち戻ろうとしているようにも見える。

アメリカのバイデン政権関係者を含めて、現在のロシア・ウクライナ戦争の当事者たちは、そこから遠いところにいる。

そうだとすれば、と、ミアシャイマー教授は言うだろう。「均衡性」を度外視して、ウクライナが勝つか、ロシアが勝つか、二者択一の世界が広がる。純粋な「攻撃的リアリズム」の世界だ。

欧州の指導者たちは、そのうえで「ウクライナが勝たなければならない」と力説している。バイデン政権関係者は「ウクライナに勝ってほしい」という言説で、アメリカの有権者にアピールしようとしている。

そこでゼレンスキー大統領は、だったら米欧諸国よ、もっともっともっと深く戦争に関わってほしい、直接介入してもらっても構わない、というエスカレーションのことばかりを考えている。

しかし、「ウクライナは勝たなければならない」と力説している諸国は、実際には自ら介入する意図は持っていない。

この様子を見るミアシャイマー教授は、次のように考える。もしそうだとすれば、純粋な「攻撃的リアリズム」の観点からすれば、ウクライナの敗北以外のシナリオで、戦争が終わることはない、と。

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