そのため、地層の年輪、年縞を化学分析すればその当時の大気の成分や植物などの情報がわかるのです。そのため、水月湖の年縞が世界標準時計となっているのです。

そもそも、地球の気温の変化はどう言う仕組みで起こっているのか、地理好きで、大学時代は探検部にも属していた僕は興味があったので、アマゾンでブルーバックスでベストセラー第一位となっている、「人類と気候10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか」を、二つの視点で読んでみました。

一つは著者と同じ科学者の立場から純粋に「古気候学、地質年代学」に興味を持って、二つ目は地球の気候変動と今のCO2削減政策の関連をより深く考えるために。

(1)まず、同じ科学者の立場から。

地球の気候は何が原因で変化していくのかを、わかりやすく、地球の公転軌道、自転軸の変化などから、中高生にも理解できるような明快さで解説しています。

その導入部分だけでも十分読者を惹きつける魅力に満ちたものとなって、グイグイ読み進めたくなります。過去10万年もの長い期間の地球の気候をどうやって測定するのか、「年縞」というまるで年輪やクレープの生地のような地層にできる薄い層を一つ一つ分析するその原理、そして地層を崩すことなく採取する作業のことなど、実験研究者の僕にはその苦労と面白さが手にとるようにわかりました。

ここで使っている測定手法の蛍光X線解析は、僕自身も日豪のシンクロトロンを利用して実験しているので、親近感も湧きます。

そして、そのような貴重な「年縞」を採取できる場所が、福井県の水月湖にあることを著者の恩師が(偶然)発見したことも、僕自身が研究者として、鳥肌が立ちました。

そこで得られたデータを元にした「地球時計」が世界標準となっているとのことです。なぜ水月湖がそのような条件を満たしていたのかの説明も面白く(水が4℃で一番比重が重くなること、水月湖に河川からの土砂が流れ込まないこと、湖底に酸素がなく年縞をかき混ぜる生物が存在しないこと、そして年縞が堆積していく速度以上に湖底が沈んでいくことなどなど)まさにミラクルが日本で起こっていたことでまたまた鳥肌が立ちました。