最後に一つ猪瀬書の難を挙げれば、参考文献に児島氏や冨士氏のそれにはある『極東国際軍事裁判速記録』と『共同研究パール判決書』が見当たらないこと。冨士氏の労作『私の見た東京裁判(上下)』も記述がないが、児島氏の『東京裁判(上下)』は書かれている。やはり猪瀬氏は「作家」である。

その証拠に、巻末に付された「予測できない未来に対処するために 文庫再刊によせて」という「2021年初夏」に書かれた「あとがき」的な一文が非常に興味深い。猪瀬氏が偶さか入手した「マレーシアの歴史教科書」の記述を基に、戦時の日本を振り返る洞察力の鋭さには何度も頷かされた。