単行本下巻(講談社)、379頁
強調は引用者
プロバカートル(挑発者)とは往年の左翼用語で、失敗が確実の過激な方針をあえて煽動し、体制側が摘発する口実を作る人を指す。そうした者が味方に混じっていると、もちろん党は警察に踏み込まれ壊滅してしまうので、スパイと並ぶ「裏切り者」「人民の敵」とされたわけである。
重要なのは、スパイは官憲からお金をもらうなりして、自覚があってなるのが基本だけど、プロバカートルの場合は、自覚なしに「なってしまう」こともあり得る。それはそうなのだが、そこに「客観的には」という言い方を持ち込むと、恐ろしいことになる。
お前がやったことは、俺たちの党にとっては好ましくない、という、単なる特定の立場からの価値判断に過ぎないものが、あたかも自然法則に基づき、リンゴは手を離せば落ちるのと同じくらいの確実さと絶対性をもって、「自明のものとしてお前は悪だ」に変換されてしまう。
……いやぁ、秘密結社って怖かですねぇ。クローズドな人間集団の内部でのレッテル貼りは、本当に恐ろしい。
立花の同書は、敗戦後の合法化を経て高度成長期に大衆政党へ飛躍した後でも、日本共産党の民主集中制にはそうした地下組織としてのエートスが残っていることを指摘して、大きな反響(反共?)を呼んだ。
……ところがふと気がつくと、いまや共産党員ではない人(つまり私やあなた)も含めて、誰もが同じ「客観的には」の論理に襲われかねない。そんな社会が始まっている。
直近のきっかけは、2020年の新型コロナ禍だった。「客観的には」その活動は、ウイルスを広める行為なんだ。そうした口実で、憲法が保障するはずの私たちの移動や集会や営業の自由は、みるみる失われていった。
2021年以来、僕はコロナワクチンについて何を語ってきたか|Yonaha Jun
4年前の今日、つまり2020年の4月7日に、日本で初めて感染症の流行に対する「緊急事態宣言」が出た。もちろん新型コロナウィルスをめぐるもので、当時の首相は安倍晋三氏(故人)。最初は7つの都府県に限られていたが、同月16日に全国に拡大され、翌月まで続いた。 おそらくこのとき、僕たちの社会は決定的に壊れた。今日に至るまで...