研究チームはマウスの脳に蛍光マーカーを注入し、神経活動をリアルタイムで可視化する手法を用いて脳内の変化を調べました。
その結果、思春期にあたる若年マウスでは、「背側内側前頭前野(dmPFC)」という部位の神経活動が弱いことが判明しました。
dmPFCは、人間においても判断力や自己制御、感情処理を担う重要な前頭皮質の一部であり、ここが十分に発達していないと、リスクに対する反応が鈍くなると考えられています。
加えて、このdmPFCは「基底外側扁桃体(BLA)」や「側坐核(NAc)」といった脳の他の部位と密接に連携しています。
BLAは恐怖や危険を記憶し、NAcは報酬や快感を司る領域です。
若い脳ではこれらの部位のネットワークがまだ安定しておらず、報酬に惹かれるあまり、脅威への感受性が弱まる傾向があるのです。
一方で年齢を重ねると、これらのネットワークがより洗練され、dmPFCからBLAへの制御が強まり、恐怖やリスクを重視する傾向が強くなるというのが今回の研究の大きな発見でした。
では、若者がリスクを選ぶことは悪いことなのでしょうか。
若者が「危険な道」を選ぶのは悪いことなのか?──若者への正しい見方を考える
この研究は、「なぜ10代の若者がリスクを恐れないのか?」という疑問に対して、明確な神経科学的根拠を提示しました。
しかし、ここで見落としてはならない重要な視点があります。
それは、リスクを取ることが必ずしも悪いことではないという点です。
思春期は、新たな経験を求め、自分の限界を試すことで、将来の適応力や創造性を育む大切な時期です。
進学、就職、恋愛、独立など、人生の大きな選択が集中するこの年代において、「慎重すぎること」よりも「挑戦する力」が求められる場面も多いはず。

今回の研究は、脳が発達段階に応じて異なる「配線」を持つことを示しました。