「スズキ・メソード」は、自然な母語習得を楽器演奏習得に応用した教育法であり楽曲の練習をする際に音源を聴くことを重視しています。言語の自然習得は、アメリカの言語学者ノーム・チョムスキーが提唱する「言語生得説」の基礎となる考え方であり、あらゆる自然言語の普遍性を裏付けるものです。この仮説の脳科学的根拠については、酒井氏による近著『チョムスキーと言語脳科学』(インターナショナル新書、2019年)と『脳とAI-言語と思考へのアプローチ』(中公選書、2022年)にて詳しく記されています。
こうした結果を踏まえ、研究チームは「なぜ耳で聴く方法がフレーズ全体の文脈理解に強みを発揮するのか?」を脳科学の視点から詳しく論じています。
次の段階では、音楽の学習法を最適化するだけでなく、言語習得などにも応用できる可能性があると考えられており、私たちが「耳」と「譜面」のどちらからアプローチするべきかを再考するきっかけにもなりそうです。
耳から学ぶ? 譜面で極める?──両脳活用が導く新たな音楽教育

今回の実験から見えてきたのは、耳で覚えた曲と譜面で覚えた曲で、脳のどこが、どのように活性化するかが大きく異なる可能性です。
耳を使った学習では、特に左脳の前頭葉を中心に活動が強まり、これは言語を理解するときに働く「構文処理」の中枢とも重なっていると考えられています。