まず、耳で学んだ曲(音源を聴き込んだ曲)のほうが、こうした“不自然なフレーズ”を高精度で見抜ける傾向がありました。

特にMultiグループ──複数楽器を扱ってきた参加者たちは、譜面重視で学んだ曲よりも「耳コピ系」で学んだ曲のほうが、はるかにミスを検知しやすかったというのです。

さらに脳のスキャン画像を見てみると、“耳コピ系”の学習を経た曲を判断するとき、左脳の言語中枢に近い領域が強く活性化している傾向がありました。

これは「文法(言語構造)を理解するときの脳の動き」と似ているともいわれ、音楽のフレーズを“言葉”のように捉えている可能性があると指摘されています。

一方、譜面から学んだ曲を判断するときには、右脳の前頭領域や聴覚関連の部位が広く使われるケースも多かったようです。

特に「譜面を読むのに苦労する人」ほど右脳の働きが顕著だったとも報告され、脳全体で曲の情報を補うようなイメージです。

このように、右脳は「全体を感じ取る直感的な司令塔」、左脳は「構造を論理的に分析する専門家」のように協力しながら音楽を理解している可能性があります。

譜面に集中すると右脳がサポートに回る場面が増え、音を聴く学習では左脳が文法的アプローチでフレーズを組み立てる──そんなイメージでとらえると、脳の働きの仕組みがより直感的にわかりやすくなるのではないでしょうか。

そして、彼らとは別に設定された「短期練習をまったく行わなかった参照グループ」の正答率を見ると、やはり“耳コピ系”でも“譜読み系”でも練習した人たちに比べてガクッと低い値が示されました。

つまり、たとえ1週間という短期間であっても、しっかり曲を練習すればそれだけ「不自然なフレーズ」を聴き分ける能力が高まり、それが脳活動にもはっきりと反映されるわけです。

しかも、マルチ楽器経験者や幼少期から耳を鍛えてきた人々(たとえば“スズキ・メソッド”経験者)は、この能力がさらに高まりやすいというのですから、音楽と脳の関係はますます奥深いといえそうです。