また、どんな条件で振動がきちんと揃うのかを理解することもできます。

では、ずっと同じリズムを保ち続ける“連続時間結晶”と呼ばれる半導体スピンの仕組みに、ほんの少しでも周期的な変化を加えたら、いったいどんなことが起こるのでしょうか。

強固な結晶リズムがあっさり崩れてしまうのか、それとも一段下の段差に“はまり込む”ようにして別の周波数で同期を起こすのか、あるいは階段の端(へり)で跳ね回ってカオスに突入するのでしょうか?

そこで今回の研究では、そうした「頑丈そうに思われた時間結晶」が、少しの刺激を受けるだけでどのように変化し得るかを詳しく調べました。

悪魔の階段:秩序とカオスのはざまで

“悪魔の階段”に挑む時間結晶――カオスへ滑り落ちる最前線
“悪魔の階段”に挑む時間結晶――カオスへ滑り落ちる最前線 / Credit:Canva

時間結晶に刺激を与えたらどうなるのか?

謎を解明するため研究チームはまず、インジウムを少しだけ混ぜたヒ化ガリウム(InGaAs)の半導体を用意し、その中で電子スピンと核スピンがお互いを支え合うように振動する仕組み――いわゆる連続時間結晶――を作り出しました。

イメージとしては、小さな磁石同士が連携し合いながら、ほぼ一定のリズムで回転し続ける状態を保つようなものです。

次に、そのリズムを“ほんの少しだけ揺さぶる”ため、レーザー光の偏光を周期的に変えて外部から刺激を与えました。

すると、ぴったり同期してリズムが合う周波数帯がいくつも見つかっただけでなく、ちょっとした条件の変化で突然リズムが乱れ、カオスのように不規則になる場面も捉えられました。

さらに、周波数を連続的に変えていくと、悪魔の階段と呼ばれる階段状のパターンが鮮明に浮かび上がり、階段の端では複数の周波数成分が干渉し合ってカオス状態に突入することも確認されたのです。

要するに、外からわずかな刺激を加えるだけで、安定していた時間結晶が思ったより繊細にいろいろなリズムへ変化していくことがわかったわけです。

“わざとカオス”を操る時代――時間結晶が示す新世界

“悪魔の階段”に挑む時間結晶――カオスへ滑り落ちる最前線
“悪魔の階段”に挑む時間結晶――カオスへ滑り落ちる最前線 / Credit:Canva