ふつう「結晶」といえば、空間内で原子がきれいに並ぶイメージを思い浮かべるかもしれません。
ところが、時間結晶では空間ではなく時間の流れそのものが循環するように繰り返されると考えます。
たとえばメリーゴーラウンドが、誰にも邪魔されずに回り始めたら、いつまでも同じリズムでくるくると回り続けるようなイメージです。
もしそんな状態が自発的に生まれて保たれるなら、“時間が結晶のように固まった”といってもいいのではないか――これが時間結晶のアイデアです。
最初は「そんなもの本当にできるの?」と疑う声も多かったのですが、その後「連続時間結晶(CTC)」や「離散時間結晶(DTC)」といった概念が提案され、冷却原子や半導体などいろいろな系で「実験的に実在するかもしれない」と分かってきました。
特に、インジウムを混ぜたヒ化ガリウム(InGaAs)と呼ばれる半導体では、電子スピンと核スピンが“お互いに回転を支え合う”ような循環的な相互作用を形成し、まるでずっと振り子が揺れ続けるかのように自己振動を保つとわかったのです。
しかし、この世界にはもう一つ、とびきり不思議な存在があります。
それが「悪魔の階段(デビルズ・ステアケース)」です。
これは、振動している物体に外から一定のリズムで刺激を与えるとき、その刺激のリズムと物体自体の振動リズムが「ちょうどいい分数比」や「整数比」でピタッと合ってしまう(同期してしまう)ポイントが、階段の段差のように次々と並ぶ現象を指します。
さらに、その階段のようなパターンは「フラクタル構造」と呼ばれ、どれだけ拡大しても、同じような段差がいくらでも続くのが特徴です。
その果てしなく続く階段を“悪魔”にたとえて、「悪魔の階段」と呼ばれています。
この悪魔の階段を調べると、秩序のあるきれいな振動がどのように乱れてカオス(無秩序な動き)に変わっていくか、その境目がどこなのかを知る手がかりになります。