シャチは世界中の海に生息していますが、生物学的には1種のみとされています。
ただいくつかの異なるグループに分かれており、これらのグループは遺伝的特徴だけでなく、見た目や行動、社会的関係、食事の内容、鳴き声もそれぞれ異なります。
北太平洋東部には、「アラスカ」「北部」「南部」という3つのシャチのグループが存在しています。
この中でも最も小さなグループは南部であり、このグループに属するシャチは「ミナミシャチ(Southern Resident killer whales)」と呼ばれます。
ミナミシャチは絶滅の危機に瀕しており、その数はわずか75頭しか確認されていません。
ミナミシャチの繁栄は、同じく絶滅危惧種であるマスノスケ(英名:キングサーモン)と密接な関係があります。マスノスケを主食とするミナミシャチは、マスノスケが十分に存在しないと、絶滅リスクが高まるのです。
そんな絶滅の危機と隣り合わせの中、ミナミシャチは奇妙な行動をとっています。
それが小さなイルカの種ネズミイルカに嫌がらせをするというものでした。
ネズミイルカを食べずに殺すミナミシャチ

ネズミイルカは小型のイルカで、主に海洋の沿岸や河口に生息し、河川を数百km遡上することが知られています。
雄よりも雌がやや大きく、成熟した雌の体長は約1.7m、体重は約75kgになり、野生での寿命はおおよそ20年程度で、日本では現在、北海道のおたる水族館でのみ飼育されている非常に珍しいイルカです。
そんなネズミイルカに対し、太平洋岸北西部では何十年もの間、ミナミシャチが嫌がらせをし、さらには食べないにも関わらず殺しているのが観察されてきました。
論文では次のようなシャチの様子が報告されています。
