プーチン大統領は、この情勢をふまえて、国連カードの最大限の有効活用を狙っている。もちろん、現在、戦場で優位を保って支配地を広げているロシア側に、早期の停戦を焦る動機がなく、引き延ばしを図っていることは、確かだろう。だがロシアがトランプ大統領の停戦調停努力に大きな関心を寄せていることもまた確かと思われる。時間を稼いでロシア軍の進軍の様子を見守りながら、交渉の落としどころも探っている。
落としどころの最終的な具体的詳細は、交渉を通じた人間的な作業の後に決まってくることなので、完全に予測することは難しい。
ただし前回の記事で参照したウクライナを三地域に分ける仕組みは、米露間では、もうほとんど叩き台のようなものだろう。その線引きの具体案が、駆け引きを通じた折衝対象になると思われる。
いずれにせよ、紛争当事者のトップ同士がお互いに会うのを拒絶しているような状況で、超大国アメリカが調停人となって間に入って、交渉が進められている。
その結果、注目度の高さもあり、ロシア、ウクライナ、そしてアメリカの首脳が、あえて第三者向けのメディア対応やSNSなどの機会を通じて、交渉に影響を与える発言をあえて行う「劇場型」の交渉となっている。毎日ニュースで報道されているロシア・ウクライナ戦争の特殊な性質によるものだ。

トランプ大統領(ホワイトハウス X)、ゼレンスキー大統領(同大統領インスタグラム)、プーチン大統領(クレムリンHP)
だが、いかに「劇場型」で進んでいると言っても、交渉は交渉だ。その点も忘れず、冷静に事態の推移を見守って分析していく態度が必要だ。万が一、見ている日本が浮足立ってきて、地に足の付かない発言や行動に引き寄せられてしまったりすると、大きなリスクを抱えこんでいってしまうことになる。
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