経済産業省はこれらの事案を受け、事業者公募の制度を見直し、物価変動分の一部を販売価格に反映する方針を示しました。具体的には、資材費や施工費の上昇分について、公募実施前年の価格水準に対し最大40%を上限として販売価格に反映できるようにするとのことです(価格が下落した場合にも反映されるとされています)。

しかし、この上昇分はどのように算定されるのでしょうか? 落札業者の申告によるものなのか、それとも役所が算出するのか。いずれにせよ、納得感を得るのは難しいように思います。

さらに、「この建設にかかった資材費や工事費を、電気を使用するすべての人が負担する」という考え方は、まさに総括原価方式の復活です。経産省の官僚や大学の専門家、大手マスコミが忌み嫌ってきた総括原価方式そのものではないでしょうか。

東日本大震災以降、総括原価方式は「電力会社が経営努力をしない元凶」と批判されてきました。しかし、私は総括原価方式が必ずしも悪いとは思いません。多額の設備投資を行い、そのコスト回収に20年から40年もの長期間を要する設備産業においては、総括原価方式が最も優れた料金算出の方法だと考えます。

実際、JRの運賃や上下水道料金、さらにはNHKの受信料でさえ、総括原価方式に基づいて算出されています。設備産業でこの方式を採用していないのは、携帯電話業界くらいではないでしょうか。しかし、携帯電話業界は市場が拡大を続けているため、むしろ例外的な存在です。一方、電力市場は東日本大震災以降縮小傾向にあります。今後、データセンターの需要増加などで市場が拡大すると言われていますが、その確実性は不透明です。

このままでは、いざ市場が拡大した時に「売る電力がない」という事態に陥る可能性があります。

電力の市場を自由化すれば、安価で多様なサービスが提供され、再生可能エネルギーも大量に導入できる——そう言われてから10年以上が経ちました。しかし、実際には自由化や競争原理を中途半端に取り入れたことで、仕組みは複雑で難解になり、電気料金はどんどん上昇しています。