緑の党が連立政権に参加しなければ、メルツ新政権が前政権以上に野心的なエネルギー・温暖化政策を追及することはなさそうだ。むしろ効果的な気候対策と経済の安定性および市民の支払い能力を両立させることが最大の課題となる。
とはいえ、新政権は2045年までに温室効果ガス排出量を正味ゼロ、暫定目標として2030年までに65%削減との前政権の目標は堅持すると言われている。また気候変動対策奨励金制度や、市民や企業を救済するための送電利用料の削減やすべての部門における再生可能エネルギーの拡大等においては両党のポジションに違いはない。
連立協議におけるエネルギー温暖化関連の論点としては、第一に債務ブレーキの調整がある。気候変動対策、インフラ、防衛等、多くの分野で莫大な投資ニーズがある一方、新規借り入れについては憲法上の上限があり、エネルギー転換を進めるためには債務ブレーキを調整するためのメカニズムに合意せねばならない。SPDは債務上限の改革を強く主張しているのに対し、CDU/CSUは民間投資家に強力なインセンティブを与えるべきであるとして債務上限の見直しに否定的であった。
トランプ政権の下で米国のウクライナ戦争への関与方針が大きく変わり、欧州において防衛費増強へのドライブがかかる中、3月初め、両党は防衛費については債務ブレーキの対象から除外することに合意した。防衛はさまざまなセクター絡むため、エネルギー転換関連支出の一部も債務ブレーキの適用除外になる可能性もある。
第二に暖房法の見直しだ。前政権が導入した化石燃料による暖房システムの段階的廃止については消費者の負担が大きく、国民からの不満が強い。CDU/CSUは選挙戦において消費者の選択を制約する同法の廃止を公約している。
第三に内燃機関エンジン自動車の販売規制だ。CDU/CSUは2035年に内燃機関エンジンの新車販売を禁止するというEUの目標を拒否している。SPDは目標堅持を支持してきたが、経済成長の低迷、労働者の解雇、ドイツ全土での自動車工場の閉鎖が迫る中、労働組合や国内自動車産業の支持を得るため妥協を迫られるだろう。