ターゲティング政策は、資本蓄積の貧しい発展途上国では成功することがある。それは村上泰亮も指摘したように、費用逓減(規模の経済)の大きい場合にのみ適したビッグプッシュ戦略だからである。
発展途上国のように資本が不足して労働が余っている場合、労働者は自分の雇用を奪う技術には投資しないので、外部の投資家がファイナンスするしかない。しかしその資金が調達できなければこのプロジェクトは成立しないので、最初に必要なのは資本である。
つまり技術革新が可能になるためには、巨額の資本とそれを使ってリスクをとる投資家が必要で、政府がこの役割を果たす必要がある。このような収穫逓増の効果は資本設備が一定の規模を超えないと出ないので、そういう限界を超えるビッグプッシュが必要なのだ。
高度成長期の産業政策は「ビッグプッシュ」だった
複数の技術があるとき、成長は資本と労働の初期値に依存する。いま労働人口と技術を一定と仮定し、所得Yが資本ストックKで決まる単純な生産関数Y=F(K)を考え、貯蓄率をsとする。投資は貯蓄に等しくなるのでsYになり、資本の減耗率(減価償却率)をdとすると、新古典派成長理論ではsY=dKとなる点で費用逓増の定常状態になる。

経済がK1から出発した場合、臨界点K*に達するまでは規模の経済が実現できず、投資が資本の減耗を下回るので、資本が蓄積されない。このため所得が低く、人々が食糧以外の消費財を買わないので、そういう部門の投資が増えない…という悪循環に陥る。これが貧困の罠である。
しかし巨額の公共投資でインフラがK*を超えると、投資が資本の減耗を上回るようになるので、資本が蓄積される。これによって資本集約度が上がって経済は成長し、所得が増えて貯蓄も増えるので投資も増え、K2に達した段階で投資と減耗が等しくなる。これが定常状態で、それ以上は資本ストックは増えない。