「予断を許さない」としたが、知財高裁判決を覆す可能性が高いと思った。上告受理申立てを受理しなければ、結果的に知財高裁判決が維持されるので、受理したからには覆す可能性は高いからである。

では、なぜ最高裁は上告受理申立てを受理した上で、知財高裁と同じ結論の判決を下したのか?東京地裁判決は「音楽教室 vs JASRAC事件判決文の4つの争点について」のとおり、今の時代の社会通念から乖離した、昔の判決をいくつか踏襲したが、そのうち最も重要な判決が今回、最高裁でも唯一の争点となった著作権侵害の主体について判断したクラブキャッツアイ判決である。

音楽教室 vs JASRAC事件判決文の4つの争点について
JASRACの音楽教室からの使用料徴収方針に対して、音楽教室事業者(以下、「原告ら」)が徴収権がないとしてJASRACを訴えた訴訟で、東京地裁(以下、「地裁」)は2月28日、原告らの請求を棄却した。以下、88ページに上る判決文の概要を紹介す...

カラオケ法理の呪縛

1988年、最高裁は当時、多くのカラオケ店が著作権使用料を払わずに営業していた事態に対応する必要に迫られた。カラオケ店で歌っているのは客だが、客は歌う=演奏することによってお金を儲けているわけではないので著作権侵害とはいえない(著作権法第38条)。

このため、最高裁はカラオケ店主が ①客の歌唱を管理し、②利益を得ている、ことを理由に著作権を侵害しているとみなした。その後、この判決はカラオケ法理とよばれるようになり、カラオケ関連サービスだけでなく、インタネット関連サービスにも広く適用されるようになった。ネット関連新サービスを提供するベンチャーの起業の芽を摘み取り、日本のIT化・デジタル化を遅らせる原因にもなった

最高裁がカラオケ法理を再検討する機会が訪れたのが、2011年のまねきTV事件とロクラクII事件。インターネット経由で海外に住む日本人も日本のテレビ番組を視聴できるようにするサービスに対し、知財高裁はいずれも事業者の著作権侵害を否定する判決を下した。