そこで野党が繰り出した次の一手が、安倍派元会計責任者の参考人聴取だ。当然、筆者は前記の政倫審と同様の結果になると考えていた。が、そこでは、今まで筆者の胸中にわだかまっていたあることについて明らかにする新しい証言がなされたのである。今は、やって良かったと思っている。

そのわだかまりとは何かといえば、総理を辞して派閥の会長となった安倍氏が令和4年4月に中止を指示したことが、「派閥の政治資金パーティー券販売ノルマ超過分の『還流』」だったのか、それとも「政治資金報告書への『不記載』」だったのかという問題だ。今までこれを明確に報じた記事を、筆者は寡聞にして存じない。

聴取した安住予算委員長は、安倍元総理が中止を指示したのは「還流」だったと元会計責任者が証言した、と述べた。安倍氏が「不記載」を認識していたのに「還流」にだけ言及するとは考え難い。安倍氏も「不記載」を知らなかったのではなかろうか。そしてその年の8月、幹部会合で再開が決まったのも「還流」だった。「還流」は、政治資金収支報告書にちゃんと記載するなら何も問題はない。

修正すれば済む形式犯とはいえ、不法なのは「不記載」なのである。これに関して元会計責任者は、旧安倍派の幹部議員が政倫審で異口同音、不記載は派閥の会計責任者の指示だったと証言したことについて、「(不記載を)指示したつもりはない。事務局長に就任する前から派閥にいた議員はそれまでのやり方を踏襲していた」と述べた

政倫審で弁明した安倍派議員の大半は「不記載」の認識がないか、或いは認識するも派閥の指示なので帳簿をつけるなり、別管理するなりしていたようだ。

犯意の有無を蔑ろにする岸田自民党の迷走
刑法上の「故意」について『世界大百科事典』(旧版)は大要次のように言及している。 刑法では、過失を処罰する特別な規定のない場合には、故意のないかぎり犯罪は成立しないので、故意の意義が重要な問題になる。刑法上の故意とは、犯罪を犯す意思(犯意...