言うまでもなく、このトランプ大統領の心情の吐露は、昨日の「欧州はどこで間違えたのか:懲悪ファーストの陥穽」という記事で私が書いたことと通じる。欧州に見られる傾向は、ゼレンスキー大統領によって象徴的に示されている。
自分と異なる意見を持っている者は、全て、「プーチンがどれだけ悪人かを理解していないからそうなるのだ」という論理で、一刀両断にする。そこで「プーチンは悪人だ」という話を延々と続ける。そして最後に「だからウクライナを支援しなければならない」という結論が来る。その結論に少しでも異議を唱えようものなら、「まだお前はプーチンがどれだけ悪人なのかわかっていないのか、プーチンに篭絡されているのだな、よし、プーチンがどれだけ悪人かさらにもっと説明してやろう」ということになるので、トランプ大統領にしてみれば、もう嫌だ、という気持ちの吐露になる。
あらゆる政策の決定基準が、「プーチンを困らせることができるか、喜ばせてしまうか」になっている。「自分が損をするか、得をするか」ですらない。仮に自分が損をしても、プーチンにも損をさせることができるのであれば、それでいいではないか、という基準である。
他人の意見を聞く際にも「プーチンが言っていることに近いか、正しくプーチンを否定することを言っているか」、を基準にする。「自分の言っていることは正しいか、間違っているか」ですらない。
悪人であれ何であれ、他者を中心基準とした政策基準を、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領は、非常に嫌う。
「アメリカ・ファースト」と「反プーチン・ファースト」の思考方法は、全く真逆を向いていると言ってよい。
ゼレンスキー大統領の言い分にも理があるとして、「なぜプーチンが悪人であることを深く理解しないのか」といった話を、トランプ大統領とバンス副大統領に、ホワイトハウスにおける数分の公衆の面前での会見の場を通じて、納得させようとするのは、無謀であった。