かつて、人生の破滅の入口はわかりやすい姿をしていた。酒、ギャンブル、借金、悪い人間関係であった。客観的に誰が見ても自分の人生のツキを下げる要素が視覚的にわかるので、こちらから積極的に近づかなければ害はなかった。

だが現代は違う。多くの人が人生を狂わせる起点になるのがSNSなのだ。わかりやすい事例として、学生が悪い大人に騙されたり、偏った意見ばかりをエコーチェンバー効果で聞き続けることで、もはや修復不可能なレベルに認知の歪みが起きたり、不安や憎悪をかきたてられつづけて、人生を豊かにする代わりに存在もしないはずの集団に立ち向かうためのムダな出費やコストを支払われてしまうことだ。

SNSは誰でも無料で入ることができる。だが、一度入るとそこから抜け出すことは容易ではない。あらゆるSNSは世界最高峰の頭脳の持ち主が、技術の粋を集めてハマらせるように作っている。そしてSNSに情報汚染されないよう自衛する思考力を持つ人は限定的であり、多くは少しずつそして着実に狂っていく。だが、その狂うスピードはあまりに遅効性であり、自分でその異常性に気づくことは容易ではない。

SNSのアルゴリズムは、利用者が興味を持ちそうな情報を優先的に表示する。その結果、似た意見ばかりが目に入り、異なる考えに触れる機会が減る(エコーチェンバー効果)。これにより、特定の思想に過度に傾倒し、現実との乖離が生じるのだ。

筆者のよく知る人間にも、SNSのフェイクニュースや陰謀論で狂ってしまい、かつて普通に楽しく会話ができていた人が不可能なレベルに狂っていくのを何名も見送ってきた。パンデミックや戦争、各国政府との外交問題などをまるでどこかのファンタジー世界の出来事のように捉えてしまい、まったく会話が通じなくなってしまった。彼らはもうこちらの世界には戻ってこないだろうし、とても生きづらくなるだろうと思う。

狂っていなければまったく違った人生を送っていた可能性を考えると、良くも悪くもSNSはとてつもない力を持っていると思う。有効に使えば若い時期から世界中の最高の情報に触れることもできるからだ。できれば後者でありたいものである。