欧州のロシア・ウクライナ戦争は、アメリカの大統領がハリス氏になるのか、トランプ氏になるのかで、大きく情勢が変わる。そのことは、日米同盟堅持の観点から、ウクライナへの政策を決めてきた日本にとっては、特に大きな意味がある。
ただ、それだけでなく、現実の戦争の様相が厳しい。トランプ氏の当選も恐れているためか、ウクライナ政府の政策が、非常に近視眼的なものになってきている印象がある。いわゆる「勝利計画」も、今年末までに、つまりバイデン氏が大統領でいる間に、支援国にさらなる支援を求める、という内容で染まっている。
トランプ氏が大統領になる可能性を見越して、年内に最大限の軍事的成果を出したい、という感情的な思いはわかる。だが結果として、クルスク侵攻作戦のような合理性の欠けた行動に、貴重な人命とその他の資源を浪費するようなことが続けば、来年を待たず、危機が増幅する恐れがある。現実に、「成熟」が成立する機運があったロシア・ウクライナ戦争の戦況は、クルスク侵攻作戦以降、ウクライナ不利の流れで、流動化し始めている。

停戦機運の「成熟」に抵抗したウクライナ――クルスク攻勢という冒険的行動はどこからきたか:篠田英朗 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト
クルスク攻勢の重要な留意点は、東部戦線などの劣勢に苦しむウクライナ側が、あえて停戦を遠のかせる軍事行動をとったことだ。停戦になびくことを拒絶し、むしろ戦争を継続させるための作戦を遂行した。ザートマンの「成熟理論」に即して言えば、「成熟」状態が成立することに抵抗したのだ。当事者が非合理な覚悟で戦争継続を望む限り停戦機運は...
さらには自衛隊が持つ唯一の海外基地であるジブチが存在する東アフリカで、ソマリアを巻き込んだエチオピアとエジプトの対立が過熱気味になっていることなど、アメリカも関与せざるを得ない国際紛争が山積している。