現在、対ロシア制裁に参加しているのは、NATOを構成する北米・欧州のアメリカの同盟諸国と、アジア・オセアニアの日本、韓国、台湾、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドという、やはりアメリカの同盟諸国だけである。世界の大多数の諸国は、参加していない。アメリカの同盟諸国の経済力が高いため、世界経済のGDPシェアで言えば、半分はあるかもしれない。だがせいぜいその程度だ。

日本のメディアは、対ロシア制裁に「穴」があるといった言い方を好む。しかし、もともと「穴」と言うには大きすぎる。世界を二分した確執が進行中だ、と言ったほうが実態に近いだろう。

米欧諸国が自信を持っていたのは、SWIFT決済体制からロシアを閉め出す金融制裁の威力に期待していたからだ。だがそれも期待していたほどではなく、ロシアはBRICSの中心議題に「脱ドル化」を掲げることに成功し、世界を二分することを狙った金融市場をめぐる闘争を盛り上げている。

もっとも「世界を二分」というのは、「ドルに人民元は取って代わるかどうか」という問いのことではない。ドル(・ユーロ)国際金融体制に、BRICS諸国が目指す「多極化世界」が挑戦をする、ということだ。

2022年2月のロシアのウクライナ全面侵攻以降、米国とその同盟諸国は、ロシアに対する「制裁」にその他の諸国も参加するように呼び掛けてきた。いまだ米国の同盟網をこえた「制裁」参加国はない。

それどころか、呼びかける過程において、次々とロシアとの関係を維持する国々を非難する行動を繰り返してきたため、他の諸国は嫌気気味になってきているのが実情だ。加えてガザ危機をめぐる米欧諸国の二枚舌外交は、他の諸国の不信感を加速度的に高めた。BRICSへの新規加盟を目指す国の数は50カ国に達しているとも言われる。

日本の経済専門家の間では、「ドルは安泰だ」「今後も米欧諸国中心の世界経済が続く」という見通しを語る方が多いように思う。私は経済のことはわからない。いずれにせよ将来の見通しは誰にとっても難しいだろう。ただ、それにもかかわらず、現在進行形の熾烈な国際的な闘争から目を背けることだけは、誰にとっても難しいように思える。