「旨い麺を出せば客は来る!」そんな考え方が赤字を膨らませた

「川田さん、ラーメンの原価率はどのぐらいなんですか?」

開店から少し経った頃、そんなことを聞かれて、ハッとしたことがある。

まったく考えていなかった、といったらウソになるけれども、細かく計算するだけの余裕がなかった。いや、細かく計算してしまうと、これじゃ何百杯売っても、たいした利益にならないよ、とわかってしまうのが怖かったのかもしれない。

ちゃんと原価率を計算して、ラーメン1杯につき、どれだけの利益が出るのかを知っておくのは「経営者」として当たり前のこと。一般的に、ラーメン屋を回していくには一日50~80杯が最低ノルマというのは今でこそ知っているけれど、そこで「料理人」としての理想と、初心者ゆえの無知ぶりが出てしまった。

「原価率なんて、細かいことはあとで考えればいい。とにかく、今は美味しい料理を出すこと。そうすれば必ず、お客さんは集まってくる!」

この自己陶酔、飲食店で失敗してしまう人の典型例です。

もちろん大前提として、美味しい料理を提供するのは大切なことではあるけれども、それが集客にすぐ結びつくほど、飲食の世界は簡単ではない。

今、日本には約3万軒ものラーメン屋が存在する。

数を聞いてもピンと来ないかもしれないけれども、町でよく見かける牛丼チェーンと比較してみよう。牛丼の大手3社の店舗数をすべて足してもたった4100店ぐらいだというから、いかにラーメン屋の数が多いかがわかるだろう。あれだけ目につく看板の、7倍以上もあるんだから。

当然、どの店も「旨いラーメンを食わせる」という部分で本気になって取り組んでいるわけで、旨いのは当たり前だし、それは最低条件。そこにプラスアルファがなければ、お客さんはやってきてくれないし、人気店になんてなれない。

ただ、そうじゃない発想も必要なのだろう。ある大手ラーメンチェーン店の社長がテレビに出ているのを見たんだけど、その社長の言葉に俺は絶句してしまった。

「旨いものを作る必要なんてない!」

飲食店を経営する社長が、こんなことを言ってもいいのか?と耳を疑ったが、その後の説明を聞いて、なるほどな、と納得した。

結局のところ「これはすごく旨い!」という食べ物は、その味の余韻が強く残ってしまうので、「明日もまた食べよう」とはならない。ちょっと間を空けて、週に一回、月に一回でいいや、という気分になってしまうわけだ。

高級な料理であれば、それでも店の経営は成り立つけれど、ラーメン屋で常連さんが月イチでしか来てくれなくなったら、もはや死活問題である。

だからラーメンのように比較的安価な外食に関しては、 「ものすごく旨い、というわけでもないけれど、まずくもない」ぐらいがちょうどいい 、とその社長は持論を語っていた。そのレベルの商品をリーズナブルな価格帯かつ安定した味で提供すれば、お客さんは「今日もここでいいか」と、毎日のように来てくれるようになる。

もちろんいい意味での「今日もここでいいか」だ。ファミリーでシェアして食べる。サラリーマンが駅近のお店にランチとして通う。飲み会の締めとしてもう一杯のビールと食べなれたラーメンをすする。気軽に足を運べるのは大事なんだよね。

これは決して理想論ではなく、実際に全国にチェーン展開をして、大成功を収めている会社の社長が語っている「現実」である。

「目から鱗」とはこういうこというんだな。もちろん原価も徹底して管理しているだろうから、その話には後頭部にラリアットを喰らったかのような衝撃を受けたよ。

原価率も深く考えずに、とにかく美味しいものを︱︱と味を追求し続けてきた俺にとっては、ちょっとしたカルチャーショックだったが、その社長が続けて口にした「成功のための条件」には完全にノックアウトされた。

  • 家賃は高くても駅近

    ・狭くてもいいから駅前に店を出す
    ・外から店全体が見渡せる入りやすい店にする

俺の店は家賃も高いし、駅から遠い。しかも半地下の構造なので外からは店の中がまったく見えなくなっている。すべてが真逆だ。まさに「してはいけない」ことをやっていると太鼓判を押されてしまったようなものだ。

もはや店の場所を変えることはできない。結局のところ、美味しいものを提供しつつ、お客さんが飽きずに何度もお店に通い続けてくれるような工夫を自分なりにしていくしか俺にはないのだが、やっぱり「俺だけの一杯」にこだわってしまった。そうこうしているうちにも赤字はどんどん膨れ上がっていった。

 

文・ZUU online編集部、編集者・川田利明/提供元・ZUU online

【関連記事】
仕事のストレス解消方法ランキング1位は?2位は美食、3位は旅行……
日本の証券会社ランキングTOP10 規模がわかる売上高1位は?
人気ゴールドカードのおすすめ比較ランキングTOP10!
つみたてNISA(積立NISA)の口座ランキングTOP10
【初心者向け】ネット証券おすすめランキング