顧客エンゲージメントへの伝統的アプローチ

多くのサプライヤーが同意しそうなことがひとつあるとすれば、それは、成約を勝ち取るには、どこかの時点で上級意思決定者を探し出し、その人に会わなければならないということだ。したがって、販売員の時間の多くは、その人への接触を認めてくれる人を探すことに費やされる。だが、ソリューション販売が複雑化したいま、そうした伝統的営業の「物理学」はもはや通用しない。

実際、数百社の上級意思決定者(この伝統的手法の中心ターゲット)を調べたところ、彼らがサプライヤーの選択に際して一番気にするのは、そのサプライヤーが顧客組織全体で幅広く支持されているかどうかだった。言い換えれば、上級意思決定者が複雑な取引で最重要視するのは、サプライヤーのソリューションではなく、自社の賛同である。ちょっと考えてみれば、それも道理だとわかる。新しいソリューションに何百万ドルも使って、結果的にみんなに反対されたら目も当てられない。それは災いのもとである。クビも危ない。
 

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『隠れたキーマンを探せ! データが解明した 最新B2B営業法』より(写真=ZUU onlineより引用)

このように、企業が顧客に売るソリューションが複雑化すると、当然、意思決定者は独力で決めることに慎重になる。その結果、販売員が苦労して上級意思決定者と面会し、説得力ある売り込みをかけても、最後はこんなセリフを言われてしまう。

「素晴らしい。ぜひ協力したい!でもその前に、この人に会ってもらわないと……あと、この人と、この人と、この人と……そうしたら準備はばっちりだよ!」

このような取引は、最重要とされる人の支持を得ても頓挫する危険性が高い。販売員が賛同者の口利きで重要人物に会い、その人を説きつけて成約と相成るような時代は遠い昔。合意形成の世界にあっては、全員が重要人物だ。いまでも「決裁権限者」や最終的な「意思決定者」はいるかもしれないが、実態はチームベースの購買である。

では、どうするか?販売員はそれでも誰かに会って話をする必要があるが、いったい誰に?

5.4人のなかで誰をまずターゲットにせよと、販売員に教えればよいか?多くの企業はいま、どうしているのか?

そこで、世界中の100人を超す販売リーダー、営業責任者、営業研修リーダーに、ステークホルダーマネジメントについて販売員にどう教えているかを尋ねた。すると、理想的な顧客関係者はこういう人だと販売員が教えられる属性はどれも似ていることがわかった。

この理想的な関係者は「賛同者」と呼んでもいいし、「指南役」と呼んでもいい。いずれにせよ、顧客組織のなかで購買意思決定の実情について助言し、そのプロセスの舵かじ取りを手伝ってくれる人に働きかけろというのが、その世界の常識である。

たとえば、接触しやすい人。サプライヤーに会って話をするのを厭いとわない人が必要である。また、サプライヤーの手に入りにくい貴重な情報を提供してくれる人。たとえば、顧客組織内の政治情勢に関する内部情報や、購買プロセスが実際どのように展開するかという有用な情報を提供できる人が考えられる。

それから当然、サプライヤーのソリューションをライバルのソリューションよりも支持する関係者が望ましい。同僚に影響を及ぼし、彼らをこちら側に引き寄せるのが得意な人なら、なおよい。そのためには他者に信用される人でなければならないし、もちろん、ビジネスケースを明確に説明して買う気を起こさせるだけの説得力も必要である。

また、正直で信頼できる人がいい。サプライヤーや同僚に真実を言う人、責任を最後まで果たすと信頼できる人でなければ、他の優れた特徴が無に帰す。理想的には、この関係者自身にも「一枚噛かんで」もらいたい。自分も利益を得る立場の賛同者であれば、もっと助けになる。そして最後に、販売員と他の関係者のネットワークを築き、最終意思決定者をはじめ、他のインフルエンサーをサプライヤーに紹介してくれる人。
 

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『隠れたキーマンを探せ! データが解明した 最新B2B営業法』より(写真=ZUU onlineより引用)

やけに長いリストだ。いっそ最終意思決定者自身に直接かけあったほうが簡単では?論理的にはそのほうが単純明快に思えるが、その意思決定者が、決定を下すために必要な幅広い支持を得られるよう販売員を送り込んだりすれば、結局は同じことである。

われわれが探しているのは、たんに重役室へ導いてくれる人物ではなく、会社のあらゆる場所でわれわれの主張を述べさせてくれる人物である。だから、属性リストがここまで長くなる。

実際、これだけ長いリストが象徴するのは、ここ20~30年のソリューション販売活動を通じてベテランから新人、マネジャーからチームへと綿々と受け継がれてきた一般通念である。そして正直なところ、これらの属性が妥当でないと主張するのは難しい。このすべてに当てはまる顧客関係者を歓迎しないサプライヤーなどいないはずだ。

だが、ひとつだけ問題がある。CEBのあらゆる調査のあらゆるデータを調べてみても、こうした人は存在しないのである。

もちろん、どんな顧客組織でも幅広い関係者をあたれば、これらの属性をすべて見つけることができるだろう。だが、そのすべてを兼ねそなえた人物はまずいない。

なぜそれが問題か?「売る相手はヒト」だからだ。売る相手は属性ではない。販売員は、こうしたリストをもとに営業するとき(頭のなかに入れていることもあれば、トレーニングマニュアルに書かれていることもある)、それが別々の特徴を列記したものとは考えず、実在の人物の記述だと考えやすい。その結果、存在しない人を探して膨大な時間を費やしてしまう。

だが当然、平均的販売員はどこかの時点で選択を迫られる。誰かと話をしなければならないからだ。これらの属性をすべてそなえた人は見つからないため、最低でも一部をそなえた人で妥協せざるをえない。

だが、どの属性を優先すればよいか?ビジネス推進の点で優先すべきものがあるか?それをどのように見分けたらよいのか?

販売員はそれ以上のアドバイスはもらえず、自身で推測しなければならない。しかし、その選択は容易ではない。この理想的な賛同者を見つけてこいと販売員に命じるのは、網を持たせて森へ放り込み、「一角獣をつかまえてこい」と言うようなものだ。みんなそれなりの創造性を発揮するので、手ぶらで帰ってくる者はほとんどいないが、獲物はせいぜい大きなヤギか、やせたサイ。四つ足で角つのがあるけれども、同じではない。一角獣も存在しないからだ。

正しい選択をしようと誠意を尽くす平均的販売員だが、結局は間違いを犯し、花形販売員が成約のために頼る人物を通り過ぎてしまう。
 

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ブレント・アダムソン(Brent Adamson)
CEBの金融サービス&顧客コンタクト・プラクティスのグループリーダー。『チャレンジャー・セールス・モデル』(海と月社)、『おもてなし幻想』(実業之日本社)の共著者。
マシュー・ディクソン(Matthew Dixon)
CEBの金融サービス&顧客コンタクト・プラクティスのグループリーダー。『チャレンジャー・セールス・モデル』(海と月社)、『おもてなし幻想』(実業之日本社)の共著者。
パット・スペナー(Pat Spenner)
CEBのセールス&マーケティング・プラクティスの戦略イニシアティブリーダー。
ニック・トーマン(Nick Toman)
CEBのセールス・プラクティス・リーダー。『おもてなし幻想』(実業之日本社)の共著者。

文・ZUU online/提供元・ZUU online

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