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自民党の岸田文雄前首相が5月にインドネシアとマレーシアを訪問し、「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」の推進に向けた外交を展開する方針が報じられた。日本のCCUS(CO2回収・利用・貯留)、水素、アンモニアなどの技術をアジア諸国に展開することで、地域全体の脱炭素を進めようという構想である。

AZECについては、筆者も昨年の12月に以下の記事を掲載した。

アジア脱炭素議員連盟の憂鬱

アジア脱炭素議員連盟の憂鬱
トランプ次期政権による「パリ協定」からの再離脱が噂されている中、我が国では12月19日にアジア脱炭素議員連盟が発足した。 この議連は、日本政府が主導する「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想をさらに推進させ、日本の技術力と...

筆者は、インドネシアのジャカルタ、バンドン、パレンバンで、政府関係者や研究機関から、日本企業の同国における技術開発の進め方、目的、協業の在り方などについて、きつい質問を受けたことが何度かあった。

そういう経験から、この構想は果たして実効性があるのだろうか? 再エネ議連など国内の政治勢力が進める理想主義的な脱炭素路線と同様、アジア展開も「理念先行・現実無視」の落とし穴にはまっているように思える。

1. 技術はあるが、現地実装には高い壁

日本の誇る高効率火力発電、CCUS、水素・アンモニアインフラといった技術群は、確かに先進的ではある。だが、いずれも実際にアジアのエネルギー現場に導入するには、以下のような現実的課題が存在する。

  • 高効率火力発電(USC・IGCC):商用化されており、導入のハードルは比較的低いものの、初期投資は高く、資金面での支援が不可欠である。
  • CCUS:地質条件やインフラ整備、法制度、住民理解といった多層的なハードルがあり、コストは極めて高い。多くの国では実証段階にすら到達していない。
  • 水素インフラ:安全性、製造コスト、輸送網整備などの課題が山積している。現地にサプライチェーンがほぼ存在せず、商用導入は遠い未来の話と考える。
  • アンモニア混焼:一定の現実性はあるが、NOx排出、供給安定性、経済性などの観点からまだ発展途上の技術である。