特に幼少期から音源を聴き込む「スズキ・メソッド」などで育った人は、耳を使った学習の効果が一段と高まっている点が印象的です。
では「耳から学ぶのが絶対にいいのか」と言うと、そう単純な話でもないかもしれません。
譜面には音楽を体系的に理解するうえで重要な手がかりが多く含まれていることも事実で、“譜読み”を通して深められる解釈や技術も確かに存在します。
今回の実験は“耳コピ”優位を強調するように見えますが、実は「耳→譜面」「譜面→耳」の両方を往復しながら学んだ方が最終的には全体像を把握しやすいのではないか、という見方も成り立ちます。
左脳と右脳が補い合っているという結果が示唆するように、片方に偏るよりも、多面的なアプローチが音楽理解の幅を広げる可能性が高いのです。
今回の研究は、音楽を聴く・読むという行為が脳内でどう処理され、どこまで相互補完し得るかを明らかにしようとする試みでした。
研究者たちは、こうした仕組みが「言語学習」や「複数言語運用」といった分野にも通じるのではないかと見ています。
実際、私たちが外国語を学ぶときも、ネイティブの音声をひたすら聴き取るだけでなく、文字情報や文法規則を学びながら習熟していくプロセスがあるからです。
音楽と言語は一見まったく違うようで、その「音と構造を結びつける脳の働き」には共通点が多いのかもしれません。
最終的に、私たちがここから得られる示唆は、曲を「耳で学ぶ」メリットと「譜面で学ぶ」メリットの両方を上手に使い分ける重要性です。
特に深い表現力や即興演奏などを身につけたい場合は、耳を研ぎ澄ましてフレーズ全体の流れをリアルタイムに感じとりながら、譜面に書かれた情報を分析的に読み解く力を養うことが不可欠でしょう。
今回の実験が示したように、短期的にも長期的にも、脳は柔軟にその学習体験を取り込み、左右で役割を分担しながら音楽の“文脈”を理解しているのです。