そしてオオカミの復活は、私たち人間へ複雑な影響を及ぼしています。

現在、EU全体でオオカミによる家畜被害は年間5万6000頭にのぼり、補償費用は1700万ユーロ(約27億円)に達します。

そしてオオカミの復活を巡っては、自然保護を支持する都市住民と、日常的にリスクを負う農村住民の間で価値観の対立も深まっています。

それでも、オオカミの存在が再び日常の風景の一部となったいま、人間社会はあらためて「野生との共存とは何か」を考え直す必要があります。

たとえば、地域に応じた家畜の保護手段(電気柵や牧羊犬の導入)や、被害に対する迅速な補償制度の整備など、現実的かつ持続可能な管理策が求められています。

また、複数の国にまたがって生息するオオカミに対しては、国境を越えたモニタリングや管理体制の構築も不可欠です。

共存の鍵は、「オオカミを守るか排除するか」ではなく、「どのように関わり合うか」にあります。

「自然の回復力を活かしながらも、人間の暮らしとの調和を目指す」

そのバランスを探る作業が、これからのヨーロッパに求められているのです。

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参考文献

Wolves make a rapid recovery in Europe
https://www.eurekalert.org/news-releases/1077165

元論文

Continuing recovery of wolves in Europe
https://doi.org/10.1371/journal.pstr.0000158

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部