だがトランプ大統領の頭の中では、経済学者にとっては起こってはいけないことが、起こりえてしまう。そのトランプ大統領がアメリカの大統領である。そして「MAGA:Make America Great Again」で語られている発想の基盤になっている「以前にアメリカが偉大だった時」は、19世紀であることが確かになってきている。
私はこの観点から、何度かトランプ大統領と19世紀の「モンロー・ドクトリン」を結び付けて論じることを行ってきている。高率関税も無関係ではない。あえて言えばそれは、「モンロー・ドクトリン」の時代のアメリカが採用していた「アメリカン・システム」と呼ばれた経済政策体系の柱だった。
トランプ関税とモンロー・ドクトリンの伝統 篠田英朗 MSN
「アメリカン・システム」と呼ばれた経済システムは、高率の関税でイギリスの工業製品などがアメリカの市場に入ってくるのを防ぎつつ、税制や補助金を通じた政府の介入的政策で、国内製造業を育成しようとする政策体系のことである。前回の記事で書いたとおり、これは初代財務長官アレクサンダー・ハミルトンが議会提出報告書『製造業に関する報告書』で謳いあげた政策体系そのものであった。アメリカは、保護主義の政策を、米英戦争後のイギリスの工業製品の流入をめぐる対応策の検討などをへながら、度重なる関税論争として、意識的に行い続けていたのである。
1824年H・クレイは「『純アメリカ的政策』の採用」と呼ばれる有名な議会演説を行い、国内市場中心の政策を提唱して高率関税の必要性を主張した。1828年にD・レイモンドが「The American System」という匿名論文を書いている。「アメリカの保護主義運動の高揚期」であった1820年代に活躍した「アメリカ体制の最も熱烈な唱道者」の一人とされるH・C・ケアリーは、自らを「ハミルトン経済学派」と呼んでいた。(宮野啓二『アメリカ国民経済の成立』[お茶の水書房、1971年]49、163頁。)