タンパク質を“爆発”させる……一見すると物騒な言葉ですが、実はこれが最新の構造生物学の新しいトレンドだとしたら驚きませんか。
X線レーザーをほんの一瞬照射するだけで、タンパク質は大量の電子を失い、原子どうしが強烈に反発し合って弾け飛びます。
スウェーデンのウプサラ大学(UU)で行われた研究によって、この爆発での破片の飛び散り方を解析すれば、似たように見えるタンパク質でもわずかな折りたたみの違いまで識別できる可能性が示されました。
CERNなどで行われている粒子衝突実験のタンパク質版とも言えかもしれません。
結晶化の難しさや回折データの取得といった従来の壁を越えるかもしれない、この斬新な手法はいったいどのようにして分子の秘密を解き明かすのでしょうか?
研究内容の詳細は『Physical Review Letters』にて発表されました。
目次
- 結晶化から爆発へ、タンパク質構造解析の発展
- 花火のように散る破片が語る、タンパク質の姿
- 壊れる瞬間から逆算する、分子の真実
結晶化から爆発へ、タンパク質構造解析の発展

かつてタンパク質の姿を調べるときには、まず“きれいな結晶”を作ってからX線を当て、回折パターンを見て構造を推定する、というのが王道でした。
でも実際には、いくら待っても結晶ができないタンパク質や、大きすぎたり柔軟に動きすぎたりする分子がたくさんあります。
たとえば、あたかも折り紙をぴったり正方形にたたんでから模様を映し出すような手順が必要で、ちょっとでも形が崩れていると全然うまくいかない、というイメージです。
これが結晶化の壁。
ここでつまずいて、タンパク質の秘密にたどり着けないままという研究者も少なくありませんでした。
その壁を壊すために登場したのが“単粒子イメージング(SPI)”という、まるで舞台の照明を一瞬だけ強烈に当てて、俳優が存在することをかろうじて観測する、みたいな手法です。