今回、最高裁は東京地裁判決を覆した知財高裁判決を支持した。上告受理申立てを受理しなければ知財高裁判決が確定するので、受理しない選択肢もあったが、受理した上で知財高裁判決を支持する判決を下した。

これについては前回投稿で、早稲田大学の上野達弘教授の論考「著作権法に関する最高裁判決の射程――最高裁判決のミスリード?ーー」『コピライト』(2018年6月号)を紹介しつつ、今回の東京地裁判決もミスリード判決の一例といえるので、「下級審がこうした判決を繰り返さないために最高裁判決として残しておきたかったのかもしれない」とした。

今回、東京地裁もミスリードされた最高裁判決は、1988年のクラブキャッツアイ判決である。最高裁は当時、多くのカラオケ店が著作権使用料を払わずに営業していた事態に対応する必要に迫られた。カラオケ店で歌っているのは客だが、客は歌う=演奏することによってお金を儲けているわけではないので著作権侵害とはいえない(著作権法第38条)。

このため、最高裁はカラオケ店主が ①客の歌唱を管理し、②利益を得ている、ことを理由に著作権を侵害しているとみなした。その後、この判決はカラオケ法理とよばれるようになり、カラオケ関連サービスだけでなく、インタネット関連サービスにも広く適用されるようになった。ネット関連新サービスを提供するベンチャーの起業の芽を摘み取り、日本のIT化・デジタル化を遅らせる原因にもなった(下図参照)。

日経記事は東京地裁がカラオケ法理に沿って、JASRACの使用料徴収を認めたとした後、「しかし最高裁は一般的感覚からは分かりづらい同法理を適用せず、実態を踏まえて判断しました。専門家の間でも「納得感がある」という声が多いです」とした。

なお、この事件を題材とした拙著「音楽を取りもどせ! コミック版 ユーザー vs JASRAC」を実写映画化するLIBERTY DANCEが夏に公開される予定。