トランプ氏は、それらの“普通で普遍的な”価値観を「偽善だ」とばかりに論難する形で登場したアクターであり、高齢であったこともあって、彼のような存在は、「時代遅れの勘違い親父」とばかりに眉をひそめるのが普通であった。理想に燃えて世界への影響力を増し、返す刀でアメリカをグレートにしていくのが、そしてそれを若くて清新な見かけの者が行うのがポピュリズムの典型だったと思われる。
しかし、トランプ氏はくじけなかった。前回記事で詳述した「アメリカの本性」を政策として実現すべく、アメリカの保守というものを体現する存在として、アメリカ・ファーストの重要性を訴えた。70歳の老いぼれ勘違い経済人が、という声にめげず、誰よりもエネルギッシュに自説を訴えた。
具体的には、白人中低所得層への寄り添い、移民の排除、次世代よりも今の世代とばかりの財政支出(減税)、環境破壊(によるオイル・ガスの利益の享受)、いわゆるDEIの否定など、当時の主流とは異なる主張を繰り返し、私から見れば決して良いことではないが、ある意味で自己の信念を貫き、一定の支持を獲得していったわけである。
第一期目も第二期目も、トランプ大統領の就任時の支持率は、歴代大統領の中で、最低レベルである。その低さから考えても、彼は決して「大衆」に迎合しているわけではない。
「大衆」に立ち向かい、自らの信念を愚直に訴え続け、やがて理解者が徐々に増えていき、まだマジョリティには至っていないものの、大統領選で勝利するところまで、すなわち、過半数を超えるところまでに支持を広げていったのがトランプ氏であり、トランプ現象の中身なのだ。
3. 日本への教訓とリーダーシップ
ともすると日本の多くの政治家などは、「最近の石丸現象、国民民主党現象などを見ると、SNSの活用、切り抜き動画などによるネット民や若手への支持の拡大こそが、政治活動上も選挙活動上も重要になっている。そして、その原点はアメリカにおけるトランプ現象だ。毎日のようにX(ツィッター)で発信を行い、大衆と直接につながり接点を持つ活動が大事だ。今や大手メディアも、トランプ氏のSNSでの発信を見守ってその内容も報道している。自分も、SNSや動画を活用しよう。大衆の動き、最近の若い人やネット民の動きに敏感になろう。」という形で、表面的にトランプ現象をみてしまっている雰囲気がある。