また、現代の労働市場では「終身雇用」の概念が崩れつつあり、個人としての市場価値を高めることが重要になっています。そうなると、特定の会社内だけで通用するスキルではなく、どこに行っても活躍できる人材になることが求められます。そのためには、甘やかされる環境よりも、挑戦を求められる環境のほうが望ましいのです。つまり、部下にとって本当に優しいリーダーとは、短期的な心地よさを提供するのではなく、長期的な成長の機会を与える存在なのではないかと考えています。

後藤:まったく異論はありません。黒坂さんの意見に強く共感しますね。特に、「優しさの定義」については重要なポイントだと思います。

多くの人が、「優しいリーダー」と聞くと、部下にとって居心地の良い環境を提供する人をイメージします。しかし、真に優しいリーダーとは、部下の市場価値を高める環境を作り続ける人ではないでしょうか。短期的な快適さではなく、長期的な成長を考えた行動こそが、本当の意味での「優しさ」なのだと思います。

実は、私自身もかつてこの「優しさ」を履き違えた経験があります。私はラグビー選手として日本一を経験し、その後、女子ラグビーチームのプロ監督を務めました。その際、私は「選手にとって楽しく、負担の少ない環境を作ることが重要だ」と考え、彼女たちが痛い思いをしないように、厳しい指導を避けていました。つまり、一般的に言う「優しい監督」だったと思います。

しかし、その結果、チームはまったく成長せず、試合にも勝てず、結局、誰も楽しくないという状況に陥ってしまったのです。選手たちの意見を尊重しすぎるあまり、組織の結束力も失われてしまいました。

この経験を通じて、私は識学の安藤社長から「お前の優しさに意味はあるのか?」と指摘されました。その言葉にハッとし、マネジメントの方法を変えていった結果、チームは3年で日本一になり、選手たちも大きく成長することができました。この経験から、私は「リーダーの優しさとは、時には厳しく成長を促すこと」だと実感したのです。